営業の極意は「売らない」ことにある
筆者の好きな漫画に『巨人の星』があります。小学生の頃に何度も読んでいました。その中に、こんなシーンがあります。ピッチャーとして悩んでいた主人公の星飛雄馬が、お寺で座禅の修行をしているときに、和尚さんがこのようなセリフを口にするのです。
「打たれまいとするほど身体に力が入ってしまうもの。打たれてもいい、いや一歩進んで打たれようと思ったときに、心と身体のバランスが良くなるのだ」
飛雄馬は座禅を組んでいるときに身体が動いてしまい、何度も和尚さんに叩かれていました。そんな飛雄馬に発したひと言です。いま、思い返してみると、「これはまさに営業にも同じことが言えるなあ」と思います。
「売りたいと思うほど、余計な力が入って売れないもの。売れなくてもいい、いや一歩進んで売らない! と思ったときに売れるのだ」
これは筆者がたどり着いた営業の境地です。筆者が営業を教えている人たちには、このことを繰り返し言っています。
ただ、必死で「売りたい」と思っている人には、なんのことだかわからないかもしれません。具体例でお話ししましょう。
リクルートでの営業時代のこと。何度もアプローチしてようやくアポが取れた社長がいました。一代で会社を立ち上げて大きく成長させていた人です。
筆者は求人広告の営業をしていたので、当然、目的は「広告の注文をもらうこと」です。でも、当時の筆者はそれ以上に、「とにかく社長の話が聞きたい」と思っていました。自分も将来独立できたらいいなとぼんやり考えていたということもありますが、それ以上に「自分の品定めをしたい」という思いがあったのです。
自分は営業として、どの程度通用するのか。一代で会社を大きくした社長に、自分は認めてもらうことができるのか。そこで、その日のゴールイメージを「この社長に一目置かれる存在になる」と決めました。そして、その会社に着いたとき、改めて自分にこう言い聞かせました。
「今日は売らない」
営業としてついつい下心が出て、売りに走ってしまうかもしれない。そんな自分を戒めるためでした。
結果、面白いように会話は弾みました。しかも、期待をしていなかった注文をもらうこともできたのです。ただ、筆者としては売れたことよりも、自分を認めてもらえたうれしさのほうが断然勝っていました。
では、なぜ売らないと決めていたのに、売れたのか?
筆者は商品を売りに行ったのではなく、自分を試しに行ったのでした。この社長に認めてもらうことだけに集中していたのです。とはいえ、「自分を売り込もう」とも思いませんでした。ただ、社長の言葉に全集中しただけです。そして、どんなリアクションをすれば一目置いてもらえるかだけを考えていました。なので社長も気持ち良く話せたのだと思います。
とくに企業の社長ともなれば、たくさんの営業を見てきています。そこで小手先のトークを駆使しても、すぐに見透かされます。そんなときは「売らない」を試してみるのも一つの手です。
■POINT
「すごい人」、偉い人にはあえて「売らない」と決めて訪問してみよう。
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