「システムの導入は企業風土の転換と同義」知財DXの専門家が業務効率化の先に見据えたもの

「システムの導入は企業風土の転換と同義」知財DXの専門家が業務効率化の先に見据えたもの
(画像はイメージです/PIXTA)

「DX」の導入が求められる現代社会、紙やエクセルでの管理が広く普及している業務を現代のIT・デジタル技術の進歩に適応させることが火急に求められています。しかし、企業で新システムを導入するのは一筋縄でいくものではありません。本記事では、アイ・ピー・ファイン株式会社・代表取締役の古川智昭氏の書籍『日本の開発力を甦らせる知財DX』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、煩雑で手間のかかる知財業務を効率化する秘訣について解説します。

システムの導入は手段であり目的である

最新技術の代表例であるAIの活用から、さまざまな知財業務関連ツールとの連携、部署間を横断する業務効率化のためのフォーマット統一、他部署から同システムにアクセスし利用をするためのユニバーサルデザインなど、知財業務の真の効率化を目指すうえで知財グループウェアに求められる要件は多岐にわたっており、非常にレベルが高いといえます。

 

この煩雑さから、一度に大きく変革をすることを避けて、従来使用しているシステムを基礎として使用するシステムを少しずつ増やすことで、徐々に変革を図ろうとする企業も存在します。しかし、そのような姿勢では変革は成し遂げられません。

 

システムの導入は、目的を成し遂げる手段として考えられがちです。しかし、IT・デジタル技術を活用した大きな変革が進む現在、システムの導入は手段であるとともに目的でもあるのです。

 

システムの導入に伴って必須であることは、従来の業務フローを大きく見直し、知財業務に従事する社員の働き方を大きく転換させることです。この転換なくしてシステムを導入する意味はありません。

 

システムを活用した業務内容の効率化は単なる省力化のみにはとどまりません。最新の技術を活用するために、社員一人ひとりのIT・デジタル技術に対する認識や知見をアップデートするとともに、技術を使いこなすためのトレーニングになるという側面をもっています。

 

この工程には時に大きな痛みも伴います。昔ながらの訓練の積み上げを重視するベテラン社員のなかには、新しい技術に抵抗を示すだけでなく、社員一人ひとりの技能の低下などを指摘する人も出てくることが予想されます。しかし、この意見に押されていては、企業風土は旧態依然となり、業務や判断のスピードアップが求められる現代において、競争力をなくしていく原因にもなりかねません。

システムの導入は企業風土の転換と同義

システムによる大幅な知財業務効率化を図るアプローチは、知財業務に携わる部署全体の風土の改革を行わなければ決して成功しません。

 

これは決して簡単なことではなく、成し遂げるためには非常に粘り強いアプローチと強いメッセージが必要です。そのため、業務効率化プロジェクトには強いリーダーシップをもった旗振り役が絶対に必要であり、責任の所在が不明確なまま、なんとなく導入するようでは決して成功しません。

 

システム導入で業務効率化を試みる際には、経営陣に導入の効果とメリットを丁寧に説明して理解を得るとともに、知財業務に携わる社員に向けて変革を呼び掛ける強いメッセージを発してもらうことも必要です。

 

経営トップからの分かりやすく力強い方針の打ち出しがあれば、システム導入はスムーズに進むはずです。それほど、システムを導入する成功のカギは人の定性的なモチベーションに掛かっているのです。

 

また、メッセージを発する経営陣、担当者、システムを利用する社員一人ひとりが、変革のプロジェクトについて単なる新しいシステムの導入ではなく、非効率をそのままにしてきた旧来の企業風土の変革を目指したものだと正しく理解する必要があります。

 

その実行のためには、システム導入担当者が知財業務効率化の背景とその手法を正確に理解し、システム導入と働き方の改革が同義であることをよく周囲に説明していく必要があるのです。

忘れてはならない業務効率化の目的

知財業務を効率化するシステムである知財グループウェアの導入に際して、忘れてはならないのが、業務効率化の先にある目的です。企業では、システム導入に際しての費用対効果の検証が必要なことから、どうしてもシステム導入の目的が作業時間や人件費の削減に向けられがちですが、知財業務の効率化では、それは真の目的ではありません。

 

知財業務の効率化によって成し遂げるべきは企業の開発力の向上です。開発力の向上とは、研究・開発部門の人員に十分な時間と予算が割り振られ、多くのリソースを新たな開発に注ぎ込み、特許を取得できる技術が多く生まれる状態を指します。

 

知財業務の効率化による特許調査のスピードアップや過去の特許調査結果の活用、自社出願特許の情報共有、他社動向の自動取得、作業進捗の状況を見えるようにしていくことなどはあくまでも工程に過ぎません。すべては、知財業務に関わる作業を省力化し、スピードアップすることで研究・開発のサイクルを早めることにあるのです。

 

私が知財業務の効率化に取り組んだきっかけも、当初は知財業務を高度化するシステムを開発しようとして企業の研究・開発部門や知的財産部門と対話を重ねるうちに、ふと、その責任者が「いろいろやりたいことがあるが特許調査がとにかく多くて手が回らない」とため息混じりに語ったのを聞いたことがきっかけでした。

 

日本の研究・開発部門や知的財産部門は、現在多くの作業で日々追われている傾向にあります。しかし、その作業を完遂することが仕事の目的であってよいわけがありません。研究・開発部門は新しい研究・開発テーマに十分な時間をもって取り組み、知的財産部門はその研究・開発の成果により生まれた技術の権利化とその運用を促進する本質的な役割が果たせる状況に環境を変えていくことこそが、知財グループウェアの果たすべき役割です。

 

開発力の向上という大きな目的は、長い期間の成果を評価しなければその達成の成否が見極められない、ややあやふやな事柄といえます。しかし、評価に長い時間が掛かるからといって無視してよい事柄ではないことは、現在の日本の状況をよく考えてみれば明らかです。

 

システム導入を進める際には、この本来の目的を忘れることがあってはなりません。それと同時に、システム導入についての関係者、システムの利用者に対してこの大きな目的を伝えることで、全員の意識を発明の創出に向けることが必要です。

 

知財グループウェアの導入が単なる省力化を目的としたものではないということが広く理解されて初めて、効率化により創出された時間が優先的に発明の創出に使われることになります。次々に新たな作業が発生してしまっては、発明に時間を割くことができません。

 

 

古川 智昭
アイ・ピー・ファイン株式会社 代表取締役

 

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※本連載は、アイ・ピー・ファイン株式会社・代表取締役古川智昭氏の書籍『日本の開発力を甦らせる知財DX』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、編集したものです。

日本の開発力を甦らせる知財DX

日本の開発力を甦らせる知財DX

古川 智昭

幻冬舎メディアコンサルティング

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