「単なるデジタル化やツールの導入による効率化ではない」実は多くの企業ができていない!? 現代社会の合言葉『DX』の実態

「単なるデジタル化やツールの導入による効率化ではない」実は多くの企業ができていない!? 現代社会の合言葉『DX』の実態
(画像はイメージです/PIXTA)

近年ビジネスの場でよく聞くワード「DX」。企業での推進意識は高まっているものの、その取り組みの多くはDXと言えるものではないことが大半だとアイ・ピー・ファイン株式会社・代表取締役古川智昭氏は指摘します。企業意識と実行の乖離はなぜ生じているのか。DXの正確な定義と共に本記事で解説していきます。

DXどころか「デジタライゼーション」すら達成できない現場

今、IT・デジタル技術の発展により、業務の変革といえば「DX(デジタル・トランスフォーメーション:Digital Transformation)」が社会の合言葉となりつつあります。

 

日経クロステックの調査では、2021年にDXを「推進している(「積極的に推進している」と「少しは推進している」の合計)」企業の割合は70.1%で、2020年の調査から22.5ポイントも増加しています(図表1)。

 

出典:「日経クロステック/日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ」
[図表1]DXの推進に関する調査 出典:「日経クロステック/日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ」

 

最近では「知財DX」という言葉も生まれ、知財業務の面でもデジタル技術を活用した変革をしようとする動きも活発になっています。しかし、その取り組みの多くはDXといえるものではないことが大半です。

 

そもそも、DXの厳密な定義を確認すると、日本政府が2018年に打ち出した「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」のなかでは「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」とされています。

 

つまり、単なるデジタル化やツールの導入による効率化だけでは、既存概念の破壊を伴いながら新たな価値を創出する改革ではなく、DX以前の段階だといえるのです。

 

総務省の情報通信白書では、このDXとデジタル化の違いについて「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」という3段階に分けて説明しています(図表2)。

 

出典:総務省「令和3 年版 情報通信白書」
[図表2]デジタル・トランスフォーメーションの定義・概要 出典:総務省「令和3年版 情報通信白書」

 

「デジタイゼーション」とは、既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換することを指します。一方の「デジタライゼーション」とは、組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築することを指します。

 

現在、知財DXの名称で叫ばれている変革は、この3つのうち「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」に当てはまるものが大半で、とてもDXと呼べるものではありません。

 

しかし、このアプローチは当然の結果ともいえ、日本企業の知財業務の多くではいまだに紙ベースの業務が多く残り、デジタル化が進んだとしてもそのファイル管理やデータの蓄積や統合すらできていない段階にとどまっているからです。

 

また、構造的な問題として研究・開発部門を対象としたDXシステムや支援サービスが提供されていないことが挙げられます。

 

世に流通するDXシステムや支援サービスの多くは、実際は「デジタライゼーション」の段階のもので、その段階のものですら、多くは営業や経理、人事、教育に関するものです。専門性が高く、企業ごとの業務特性も異なる研究・開発部門の業務を外部から改革することは非常に難しく、デジタル化が世に普及し始めた時代から、研究・開発部門の変革は立ち遅れてきた傾向にありました。

 

しかし、変革が立ち遅れてきたからといって今後も変化を起こさないままでよいわけがありません。知財業務の周辺領域である情報通信技術は日々進化しており、情報通信端末の普及や、クラウド化、コンピューターの処理速度の進化により高度化したAI(人工知能)から派生するさまざまなサービスやロボットによる業務自動化などは日常生活や企業活動のさまざまな領域に進展しています。

 

企業の知財業務を進めていくにあたっては、まずは「デジタライゼーション」を実現し、これらの最新技術を活かし、早急に業務改革に取り組むべきだといえます。その取り組みの先にこそ、新たな価値の創出を伴う知財DXの実現が具体的に見えてくるようになるのです。

段階的にDXを実現するために

知財業務を変革・改革していくためには、まずその業務のゴールと問題点を適切に設定することが必要です。

 

何をゴールと設定するかは各企業によってそれぞれかとは思います。しかし、「日本企業の開発力を甦らせる」といった観点から発想すれば、最も根本的なゴールは発明の促進であるはずです。

 

発明を促進するための知財業務の変革・改革にどうアプローチしていくかを考えると、研究・開発部門の大きな付帯業務として存在し、知的財産部門がその履歴を管理しきれず、非効率さが残っている特許調査業務が大きな課題の一つとして浮かび上がります。

 

多くの企業にとって特許調査のプロセスは紙媒体でのアナログ作業や、研究者・技術者による翻訳作業、エクセル管理による過去履歴の管理不足など大きな問題を抱える業務であるからです。

 

もちろん、ほかにも変革・改革が必要な業務は多くあるとは思いますが、ここからは特許調査についてのデジタルを活用した効率化について考察していきます。

テクノロジーに対する疑念は多いが…

特許調査の効率化のプロセスを通じて、最新のテクノロジーと知財分野の煩雑な業務をどのようにマッチングし、効率化を成し遂げるかの参考にしていただければと考えています。

 

特許調査は、その業務プロセスや業界特有のコスト構造、他部署との連携という観点からテクノロジー(科学技術)の活用が難しいと考えられてきた分野です。しかし、その業務を一つひとつ分解して考えれば、さまざまなポイントで最新のテクノロジーを活用して補助できる業務が多くあります。

 

一方で、知財業務に限らず、法務や技術、研究・開発部門など、特に専門性が高い領域でテクノロジーに対する評価はあまり高くありません。

 

特にAIをはじめとした機械による推測能力を活用した機能については、抜けや漏れがあるかもしれないという恐れから、どうしても多くの人が活用に及び腰であり、現時点では活用したとしても人の手によるダブルチェックが必須だと考えられています。

 

そのため、導入するとかえって手間が掛かると考える人もいるようです。テクノロジーの活用は、文字検索や索引機能など、確実で間違いのない機能のみを使いたいという人がまだまだ多いのが知財業界の特徴ともいえるのです。

 

しかし、この考え方は今のテクノロジーの進化から考えれば非常に時代遅れだといえます。

 

現在の知財関連業務では、最新のテクノロジーを活用することで効率化・省力化ができる余地が多くあるからです。確かに、テクノロジーの知財業務への導入については、自動運転のように一つの作業を完全に任せてしまえるほど、まだ進歩しているとはいえません。

 

ただ、使いようによっては、人間の能力を補助するものとして十分な役割を果たせる機能は多くあるのです。この時代にテクノロジーを活用するなかで必要なことは、テクノロジーの特徴を正確につかみ、うまく利用していくことだといえるのです。

 

 

古川 智昭
アイ・ピー・ファイン株式会社 代表取締役

 

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※本連載は、アイ・ピー・ファイン株式会社・代表取締役古川智昭氏の書籍『日本の開発力を甦らせる知財DX』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、編集したものです。

日本の開発力を甦らせる知財DX

日本の開発力を甦らせる知財DX

古川 智昭

幻冬舎メディアコンサルティング

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