「10年後、研究開発分野の競争力の低下が顕著に表れる」アメリカ、中国に後れを取る日本企業の“失われた30年間”の実態

「10年後、研究開発分野の競争力の低下が顕著に表れる」アメリカ、中国に後れを取る日本企業の“失われた30年間”の実態
(画像はイメージです/PIXTA)

GAFAをはじめにIT産業の興隆が著しいアメリカや半導体や家電の分野で競争力をもつ中国・韓国・台湾などの近隣国と比べると、日本企業は陰に隠れてしまっていると言わざるをえません。このような状況を鑑み、日本は「失われた30年」に突入したとアイ・ピー・ファイン株式会社の代表取締役である古川智昭氏は指摘します。本記事では、停滞する日本企業への危機意識を氏の書籍『日本の開発力を甦らせる知財DX』(幻冬舎メディアコンサルティング)より見ていきましょう。

停滞する日本のビジネス環境と空白の30年

米国の社会学者エズラ・ヴォ―ゲル教授による著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が、1979年に日本でベストセラーとなり、日本経済が高度経済成長期とその後の黄金期を迎えていた1990年代初頭までと比較して、2023年の日本があらゆる面で停滞していることは、誰しもうなずくところかと思います。

 

安倍晋三元首相により2013年に示された「日本再興戦略」で大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」が実行に移され、いわゆるアベノミクスという政策を打ち出しても、日本経済が以前のような世界のトップに躍り出ることはありませんでした。大胆な金融緩和政策の恩恵を受けて株価や企業業績が好調だったとしても、日本の企業や経済の底力が回復してきている実感が少ないという感覚は残ったままです。

 

1990年代初頭から現在に至るまでの日本の経済環境は、企業の底力や経済の実質的な強さという観点から見れば、まさに「失われた30年」という言葉がピッタリです。「失われた30年」は、日本のバブル経済崩壊後の1990年代初頭からの「失われた20年」を経て、その後の経済成長や景気拡大が起こらない場合に「失われた30年」を迎えてしまうという意味で使われていた言葉です。

 

1990年代初頭からまさに30年を迎える今この時期、その評価は定まっていませんが、多くの人の経済環境への感想や感覚は「失われた30年」に合致するのではないかと思います。

 

しかし、世界に目を向けると、日本が足踏みしていた30年で大きく様変わりしました。米国ではIT産業が興隆し、その代名詞といえるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が経済だけでなく世界秩序に大きな影響を及ぼしています。近隣では中国が急激な経済成長を遂げ、国家主導の強いリーダーシップでITをはじめあらゆる産業で影響力を強め、経済支援を通じて周辺各国の政治・経済に強く干渉するまでになっています。

 

日本がかつて世界に輸出していた半導体製品や家電製品は、中国・韓国・台湾などのメーカーが競争力をもつようになり、日本のシェアは低下し続けています。日本もグローバル化・国際化に対応してきたものの、変化のスピードや規模は世界と比べて過少だったため、世界に立ち遅れ足踏みをしてきた形となりました。

 

日本オリジナルの大きなイノベーションも起きておらず、この状態はまさに「空白の30年」といってよい状況です。

得意な技術改良で行き詰まる日本

世界トップ企業の研究開発費の伸びは、日本企業の今後に暗い影を落としています。かつて、日本が得意としていた技術改良の余地が近年どんどん少なくなっているのです。

 

「ガラパゴス化」との言葉で皮肉られた現象ではありますが、日本の家電製品はかつて世界随一ともいえる性能の高さを誇っていました。経済環境の変化により市場では性能の高さよりも安さが求められるようになった結果、日本の家電メーカーは競争力を失いましたが、かつてはモノに対する技術改良力の高さが日本企業の競争力の根源となっていたのです。

 

今は家庭に1台が当たり前となっている電子レンジは、もともと第二次世界大戦で用いられたレーダー開発技術を応用し、米国で発明されました。この電子レンジを家庭用に技術改良し新たな市場を創出したのは、日本のメーカーによる成果といえるのです。

 

1960年代後半に日本の電機メーカー各社で販売が開始された家庭用電子レンジは、メーカー各社の激しい開発競争により、普及の誘因となるさまざまな性能が搭載されるようになりました。今では当たり前のように世界各国の電子レンジに搭載されているターンテーブルや安全確保のためのドアロック、センサーによる温度調節機能などはこの時期に生まれたのです。

 

1980年代には、日本の家庭用電子レンジの普及率は世界一となり、日本の電子レンジは世界各国でも高いシェアを誇るようになったのです。同様の技術改良は、液晶ディスプレイ、リチウムイオン乾電池、デジタルカメラなどにも応用され、1990年代初頭まで優れた機能をもつ製品が世界各国の市場を席巻していました。

 

日本のお家芸ともいえる研究・開発の特徴が世界に通用していたのです。しかし今、日本の技術改良による成功体験を見聞きすることが少なくなりました。

 

現在、世界の研究開発競争は、宇宙産業技術開発や自動運転、量子コンピューター、次世代通信など巨額の研究開発費を必要とする分野ばかりが舞台で、その成果をもち帰って国内向けに技術改良を施すというモデルはもはや通用しなくなっています。

 

宇宙開発での日本の技術改良事例として、低予算ながら知恵を絞って最大の成果を狙った小惑星探査機「はやぶさ」が引き合いに出されることもありますが、あくまで低予算ながら工夫して幸いにも成功に導けた事例に過ぎず、日本が世界の宇宙産業技術開発で大きな影響力を得たかといえばそうではありません。

失われたイノベーションの影響は10年後に

しかし現在、日本企業の経営に研究開発投資の不足や技術改良の行き詰まりが影響を大きく及ぼしてはいないように見えます。その証拠に諸外国間との特許権、ノウハウの提供、技術指導など技術の提供や受け入れを示す日本の技術貿易額は長期的に見れば増加したまま高止まっており、輸出超過の状況にあるからです(図表1)。

 

出典:文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の「科学技術指標2022」を基に著者作成
[図表1]主要国の技術貿易額の推移 出典:文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の「科学技術指標2022」を基に著者作成

 

その規模は米国や中国、ドイツと比較すると小さいものの、大きく減少しているとはいえません。東証上場企業の2022年3月期決算の推計も、直近の円安も手伝って約36兆円となり、国内の3社に1社が過去最高を更新しています。

 

しかし、これらの実績は今現在の研究開発の成果を反映したものではありません。企業が保有する特許権の存続期間は20年間です。世界の大きなシェアを握るグローバル企業と渡りあえているとはいえないものの、足元では好調である企業の現業績は2000年代初頭からその後15年ほどに獲得された技術やノウハウ、特許に支えられているといっても過言ではないのです。

 

日本企業の業績面で現在の研究開発分野の競争力の低下が顕著に表れてくるのは、約10年後です。すでに技術貿易額が伸び悩んでいる点から、失われた30年の影響は徐々に顕在化しているともいえますが、日本企業の体力が試されるのはまさにこれからといってよいのです。

 

 

古川 智昭

アイ・ピー・ファイン株式会社 代表取締役

 

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※本連載は、アイ・ピー・ファイン株式会社・代表取締役古川智昭氏の書籍『日本の開発力を甦らせる知財DX』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、編集したものです。

日本の開発力を甦らせる知財DX

日本の開発力を甦らせる知財DX

古川 智昭

幻冬舎メディアコンサルティング

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