せかっく開いたNISAなのに、間違った運用をしている人も…
生徒:先生、NISAについて、あらためてくわしく教えてください。
先生:いいですよ。NISAとは、一定金額の範囲内で購入した金融資産から得られる利益が非課税となる制度なのですが、ここまではご存じですか?
生徒:はい。金融資産運用で稼いだ利益に税金がかからないので、その分だけ手取りのお金が多くなってお得だということですね。
先生:そうです。NISAは、銀行預金で貯蓄ばかりしている日本人に、金融資産への投資を促すために制定された制度ですが、肝心の資産運用を正しく教える人がいないため、せっかくNISAの口座を開いたにもかかわらず、間違った運用を行っている人も多々見受けられます。
生徒:そうなんですか! 「割高なラップ口座ではなく、NISA口座のほうを選んでおけば正解」というわけではないんですね。
大失敗1:「信託報酬の高さを無視してファンドを選んでしまう」
先生:そうです。よくある失敗のひとつは「運用コストの負担が重い投資信託を選んでしまう」ことです。最も運用コストが高いのは、フィデリティ投信のアクティブファンドで、信託報酬は1.65%。あとは日本の大手投資信託委託会社が販売している、ラップ・ファンドと呼ばれるバランス型ファンドの信託報酬も1.51%にもなります。
生徒:信託報酬が1.5%や1.6%というのはかなり高いですね。それほど費用が高いのに、なぜ人気があるのですか?
先生:一般的なラップ口座の場合、運用コストは3%程とかなり高く設定されていますが、通常のラップ口座と同じような運用手法で、1.5%という運用コストのファンドがあれば、割安な商品だとしてアピールしやすいのかもしれません。
生徒:日本人はラップが大好きですからね…。
先生:従来のNISA制度でも、2023年7月時点では対象となるファンドが約200銘柄ありますが、信託報酬の上限は1.65%になっています。そのため、意外と信託報酬で差が開きやすく、注意が必要なのです。
生徒:では、信託報酬が安いものはどれですか?
先生:いちばん安いものがeMAXIS Slim 米国株式S&P500と、たわらノーロードS&P500の2つで、2023年時点ではいずれも信託報酬は0.0937%となっています。次点で0.0938%のファンドが何本かあるので、コスト引下げ競争が激しいことがうかがえますね。
生徒:いちばん安い2つの商品は、どちらもS&P500ですね。インデックスファンドに投資するのであれば、アメリカだけでなく全世界株式のほうがよいと聞きましたが、全世界株式のファンドではどうなのでしょうか。
先生:これは悩ましい状況ですね。信託報酬の計算方法が違う会社が1位を競い合っているため、どれがいちばん安いかわからないのです。
生徒:とおっしゃると…?
先生:たとえば、トレイサーズ MSCIオールカントリーインデックスだと、信託報酬が0.057%、その次にのeMAXIS Slim全世界株式だと、信託報酬が0.113%なので、トレイサーズの運用コストが最も安いように見えます。しかし、トレイサーズは、指数の標章使用料、ファンドの経理業務や開示書類作成のコストなど、最大0.1%のコストを信託報酬に加算していないため、それらを加算すると、0.113%を超えてくるかもしれない(0.057%+0.1%=0.157%>0.113%)のです。それなら、eMAXIS Slimがいちばん安いといえるかもしません。
生徒:運用コストが安いインデックスファンドが0.1%、運用コストが高いアクティブファンドが1.6%とすると、その差は1.5%もあります。毎年1.5%の差がずっとかかってくるとする長期積立投資すると、結果に大きな差が出てきそうですね。
先生:そうです、運用コスト1.5%の差がどれぐらいの金額の差になるのかというと、新しいNISAで満額1,800万円まで投資して20年間運用した場合、最終的に430万円もの差になります。430万円なら、新車が1台買える金額ですね。
生徒:それは大きいですね!
先生:アクティブファンドにそれだけ高い運用コストを払うなら、インデックスファンドよりも1.5%以上高いリターンを毎年出さないといけないのですが、リターンの大きさはコントロールできないので不可能だといえるでしょう。
生徒:では個人投資家の場合、手数料や信託報酬の安いファンドを選ぶことが、お金を増やす唯一の手段といえそうですね。
先生:そうですね。せっかくNISA口座を開いても、ファンドの銘柄選びを間違ってしまうと大変です。銘柄は慎重によく検討して選ぶようにしましょう。
大失敗2:「短期のリターンでファンドを選んでしまう」
生徒:信託報酬が高いのに、なぜアクティブファンドが売れるのでしょうか?
先生:これは2つ目の失敗例でもあるのですが、短期的な目先のリターンの高さからファンドを選んでしまうためなのです。
生徒:どういうことでしょうか?
先生:たとえば、国内株式を対象とするアクティブファンドのひふみプラスは、2018年までは、ものすごく高いリターンを出していました。その時期に代表者が積極的にテレビに出て、個別企業へ訪問して徹底的に調査・分析を行っていると紹介していたことも、当時人気を集めていたきっかけだったといえるでしょう。しかし、2018年以降はどんどんリターンが下がっていき、TOPIXなどのインデックスファンドにも負けるような結果が続いています。
生徒:短期的に成績がよくても、それがずっと続くわけではないんですね。
先生:そうです。どんなファンドも、成績がいいときもあれば、悪いときもあるのです。ある年にものすごく値上がりしても、その翌年には大暴落することもあります。その年に、どの資産クラスのリターンが高かったのかの推移を追っていくと、毎年トップはコロコロ入れ替わりますし、前年に1位だった資産クラスが翌年には10位以下になり、マイナスを出すことも少なくありません。
生徒:なるほど…。
先生:S&P500のインデックスファンドがいいといわれてはいますが、それが属している先進国の株式だって、大負けする年もあるのです。ですから、ファンドの銘柄を選ぶときには、長期的に勝てるかどうかを考えることが重要、ということがいえます。
生徒:短期では負けることがあっても、長期的に勝つ、という視点が大事なのですね。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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