(※写真はイメージです/PIXTA)

国家財政が逼迫するなか、宗教法人への優遇税制を見直すべきだという議論は後を絶ちません。実際、“驚くほど会計意識の低い宗教法人”も存在しており、足元では全国の寺院に国税局のメスが入っています。そこで今回、“元マルサの僧侶”という異色の経歴を持ち、『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)著者の上田二郎氏が、実体験を交えながら「宗教法人の税務調査」について解説します。

「個人情報保護法だ」…帳簿の提出を拒否した住職の末路

③年回忌法要について

過去帳を確認して、葬儀、四十九日、一周忌の有無をチェックする手法もあります。一覧表にすると、不自然な状況が浮かび上がってきます。

 

葬儀がないのに四十九日だけがある。反対に、葬儀があっても四十九日はない、一周忌もない。法事は施主の意向によって行われますので、一覧表がきれいに埋まることはありませんが、日頃から「一周忌くらいはやってあげなさい」と檀家さんに言っているのではないのでしょうか?

 

一覧表にすると、法事のない理由は寺院側でもわかるはずです。しっかりした寺院では、一覧表を作って回忌通知を出しているくらいです。税務署が同じ作業をして、収入除外の証拠を突きつけてくるのです。

 

過去帳を見せないお寺もあるようです。ある住職は「個人情報保護法だ」と主張していましたが、塔婆や相続税の資料から税務署に攻め込まれ、結局、真実の帳簿を提出せざるを得なくなってしまいました。

 

過去帳は寺院の収入に直結する重要帳簿です。堂々と見せることができる経理をしておいて欲しいと思います。

 

税務署は過去帳をコピーなどしません。さらりと確認して、会計帳簿にお布施が適切に反映されているかを見ているだけです。隠そうとするから税務署も疑ってくるのです。

 

④ 反面調査とは

お布施の計上漏れが濃厚になれば、檀家さんの反面調査を行うこともあります。

 

反面調査とは、ターゲットから真実の話が聞けない場合などに、税務署が取引先に出向いて行う調査です。こんなことをされたら、お寺の会計の杜撰さが、檀家全体に知れ渡ることになります。

 

⑤ お布施を抜くのは横領です

税務調査を早く終了するには、税務署の確認したい書類を堂々と見せることが一番重要です。

 

重要な点は、すべての収入を正しく帳簿に載せていれば、本来の宗教活動であれば非課税だという点です。

 

非課税の収入をどうして抜かなければならないのでしょうか? 理由は2つに絞られます。

 

1つは、会計知識の不足や習慣からです。非課税であるのに寺院会計から除外すると、住職の給与と認定されて重加算税の対象となる場合もあります。税理士として調査に立ち会っていると、何のためにお布施を抜いているのか理解に苦しむことも多いです。

 

もう1つは、聖職者としての「俗の部分」が抜けきれていない結果だと思われます。ある住職は「どうせ税務署になんて見つかりっこない」と自慢していました。

 

確かに、お布施は現金で授受され、税務調査では発見しにくい取引です。しかし、宗教法人が得る収入は、すべてが、檀信徒、信者の資産です。代表役員である住職や宮司は、それを管理しているに過ぎません。

 

管理資産を適切なところに使って、残余資産は翌事業年度に正しく繰り越し、寺院を未来永劫存続させる役目を担っているはずです。その檀信徒、信者の資産を宗教法人の会計に入れず、個人的に費消する行為は、横領の問題ともなりかねません。

 

税務署はやさしいので、横領とはいわずに住職の給与に加算して不足分の税金を徴収するだけです。寺院設備にも調査のメスが入っています。

 

檀家さんが決して見ることができない場所に作った庭や、住職の趣味で作った茶室、なかにはピアノを習う子供のために作った防音室もありました。

 

税務署は会計帳簿を確認して多額の修繕費や工事費を見つけ出し、工事の詳細を確認するため請求書や見積書の提出を求めてきます。

 

税務署の指摘は「趣味は住職の個人的なお金でやってください」ということです。そして、個人的な支出は住職の給与と認定してきます。調査の現場から見えてくる現実は、一般企業では当たり前のことが宗教法人ではできていないということです。

 

そして、調査結果が再びマスコミに公表されることになります。

 

出所:『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)より抜粋
出所:『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)より抜粋

 

 

上田 二郎

僧侶/税理士

 

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※本連載は、上田二郎氏による著書『税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)より一部を抜粋・再編集したものです。

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