(※写真はイメージです/PIXTA)

僧侶へのお礼として渡す「お布施」について、その金額に明確な決まりはありません。では「お布施の額の決定権」はいったい誰が握っているのでしょうか。『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)著者の上田二郎氏が、実際にあった事件を交えながら「葬儀関連業界の闇」を暴露します。

僧侶派遣業者と葬儀会社もグル…7年間で5億円の所得隠し

『仏教タイムス』が今年5月に掲載した記事には、ある僧侶派遣業者がお布施の価格(あえて「価格」と言う)を明示して僧侶に受け取らせ、そこから50~60%もバックさせているとあった。

 

この記事で思い出すのは、10年ほど前、僧侶派遣会社と葬儀会社が東京国税局などの税務調査を受け、僧侶が施主から受け取る「お布施」を巡り、7年間で約5億円の所得隠しを指摘された事案だ。

 

記事によれば、施主から葬儀を依頼された葬儀会社が派遣会社に僧侶の派遣を依頼。派遣会社は登録する僧侶を派遣。僧侶は葬儀で施主から数万〜数十万円のお布施を受け取ると、その一部を「仲介手数料」として派遣会社にキックバック。派遣会社はさらに、その一部を紹介手数料やリベートとして葬儀会社にバックするシステムだ(図表)。

 

[図表]出所:エヌピー通信社第3781号(2023年7月17日号)
[図表]出所:エヌピー通信社第3781号(2023年7月17日号)

 

当局は収入の一部を除外して葬儀会社へ渡る取引について、仮装・隠ぺいを伴う悪質な所得隠しと認定した。

 

仲介業者が握る「お布施の決定権」

檀家の減少で困窮する寺院を尻目に僧侶派遣や永代供養寺院の紹介をする葬祭関連ビジネスの市場規模が拡大している。

 

社会情勢や価値観の多様化で新たに生まれたネット宗教ビジネスが、これまで地域密着で発展してきた寺院や葬儀社を廃業に追い込んでいる。

 

旧来の寺院や葬儀会社がお布施や葬儀の料金を不明瞭のままにしてきた点も足をすくわれた要因となった。不明瞭な料金に批判も多く、時代の変化に取り残された感は否めない。

 

そんな時代錯誤をあざ笑うかのように、ネット仲介葬祭業者はウェブサイトやテレビコマーシャルを使って全国展開し、「低価格・追加料金なし」を謳い文句に、僧侶に対するお布施までも明示して支持を広げている。

 

僧侶からはお布施の決定権を奪い、さながら小さな商店街を襲うショッピングモールのように街の葬儀社を飲み込む。

 

寺院は伽藍の維持に多額の資金がかかり、ホールを持つ葬儀社も設備投資を回収するために一定の価格を維持する必要があるが、ネット業者にとっては関係のないことだ。

 

顧客ニーズをつかんだネット業者がお布施と葬儀費用の決定権を奪い、檀家減少で食えない僧侶や仕事が減った葬儀社に低価格競争をさせて搾取する。ネット葬儀会社や僧侶派遣業者は、資本主義が通用しなかった葬儀関連業界に黒船のごとく出現した。

 

僧侶にお布施の決定権がなくなった業態には、法人税法が宗教法人に認める「お布施には税金がかからない」という常識までも揺さぶる可能性がある。

 

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※本記事は「納税通信」第3781号より抜粋・再編集したものです。

税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門 第三版

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上田 二郎

国書刊行会

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