1.5億円の所得隠した住職に〈追徴課税7,800万円〉→宗教法人にも課税を!世論盛り上がるが…“元マルサの僧侶”が感じた「国税への疑念」

1.5億円の所得隠した住職に〈追徴課税7,800万円〉→宗教法人にも課税を!世論盛り上がるが…“元マルサの僧侶”が感じた「国税への疑念」
(※写真はイメージです/PIXTA)

国家財政が逼迫し、宗教法人への優遇税制を見直すべきだという議論が後を絶たたないなか、2023年1月に報道された「住職による1.5億円の所得隠し」。しかし、この事件について“元マルサの僧侶”という異色の経歴を持ち、『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)著者の上田二郎氏は「本当にこれが正しい税務行政なのか」と疑念を口にします。いったいなぜか、詳しくみていきましょう。

7年間で1.5億円の所得隠し報道も…本当に正しい税務行政か?

2023年1月、新聞各紙が「お布施1.5億円を『隠し給与』と認定」などと一斉に報じた。記事によれば、2つの寺院が大阪国税局の税務調査を受け、2021年までの7年間で1.5億円の所得隠しを指摘された。国税が狙ったのは“兼務寺”のお布施だった。

 

兼務寺とは、少子高齢化や過疎化などで檀家が減少して住職がいなくなった寺院を、近隣の住職が兼務して葬儀や法事の面倒を見ている寺のことだ。住職らは、この兼務する寺のお布施を自身の個人口座に入れ、私的な貯金などにあてていたという。

 

国税局は、住職が兼務寺のお布施を法人ではなく個人の口座に入れていたことを「仮装・隠ぺい行為」と判断。重加算税を含めて計約7,800万円を追徴課税した。兼務寺のお布施はほぼ使わずに貯めていたと言う。

 

それでも個人口座に入れた時点で追徴課税の対象になると言われたとのことだ(週刊東洋経済「宗教消滅」2023年6月10日号)。

 

同誌の取材に応じた住職は、記者に対し「兼務寺の収入を個人の口座に入れて管理していた。兼務寺の収入を本寺の会計と一緒にしないようにと、先代からそういう形をとっていた」と会計処理の誤りを認めた。

 

収益事業(一般企業と競合する事業。たとえば、不動産貸付や境内の土産物店など)がない寺院は、年間8,000万円以下の収入なら法人税の申告義務がない。しかし、住職などへの給与の支払いがあれば源泉徴収義務が生じる。

 

もし、税務会計の知識があれば、兼務寺のお布施を本寺の帳簿に記帳し、本寺と区分して別口座で管理していれば、お布施には法人税がかからないため税金は0円となる。

 

にもかかわらず、寺院帳簿への記載を怠って個人口座で管理していただけで、一般法人の売上除外と同様に重加算税を賦課され、延滞税を含めてほぼすべてを当局に没収された。

 

本当にこれが正しい税務行政なのか。少なくとも兼務寺のお布施は、修繕費などに充てるための大切な資金だった。国税が給与とみなしたのはやむを得ないが、記事を読む限り、住職には脱税の意図がなく、加えて重加算税の賦課要件である仮装、隠ぺい行為が見当たらない。

 

過疎地域で檀家減少に苦しむ寺院に襲いかかった「隠し給与」に対する巨額追徴課税事案を題材に、重加算税の賦課要件について改めて考えてみたい。

 

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次ページ典型的な隠ぺい、仮装行為はないようにみえるが…

※本記事は「納税通信」第3780号より抜粋・再編集したものです。

税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門 第三版

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