(※写真はイメージです/PIXTA)

国家財政が逼迫するなか、宗教法人への優遇税制を見直すべきだという議論は後を絶ちません。実際、“驚くほど会計意識の低い宗教法人”も存在しており、足元では全国の寺院に国税局のメスが入っています。そこで今回、“元マルサの僧侶”という異色の経歴を持ち、『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)著者の上田二郎氏が、実体験を交えながら「宗教法人の税務調査」について解説します。

寺院本体の調査

源泉所得税の調査は入口です。給与や雑給の源泉所得税を把握するには、寺院の帳簿を見なければなりません。ここからが調査の本番となります。

 

税務職員は調査のプロです。寺院は普通の会社に比べて経理を熟知した職員も少なく、杜撰な経理が多く見受けられます。

 

① 葬儀のお布施について

特に寺院の収入には、お布施や車代、御膳料などの現金収入が多く、正しく現金管理をしなければ、記帳漏れが多くなります。

 

税務署はすべてを知っています。葬儀社は、喪主に「お寺さんに対して失礼のないように、お布施、車代、御膳料を別に包んでください」といっています。

 

支払った方はすべてをお布施と思っているので、相続税の申告には支払ったお布施の総額を記載します。ところが、もらった住職の認識が極めて低い場合があります。

 

ある住職は「御膳料は、俺が後席に着かなかったためにもらった金だ。席に着いて食べていれば、俺の腹に入っていたはずの金だから俺の金」と主張して、調査官に失笑されていました。

 

もちろん、車代も「俺が運転したのだから俺の金」と主張しましたが、聞き入れられる訳はありません。税法では「名目を問わずもらったものは収入」と規定していて、社会の常識でもそのはずです。

 

寺院に入った収入は、お賽銭も、付け届けも、掃除料もすべて寺院の収入です。住職個人がもらえるお金は寺院から支払われる給与だけです。

 

結局、このケースでは、悪質な収入除外と認定され、重加算税の賦課によって7年間(租税時効の限界)まで遡って源泉所得税を追加徴収されました。

 

漏れていたお布施を住職のもらっている給料に加算して、源泉所得税を再計算して追徴するのです。もちろん自分が懐に入れたお金のため、住職個人に税金を支払ってもらいました。

 

② 塔婆料について

塔婆料は最も把握しやすい収入の1つです。墓地を見れば、塔婆がいつ建立されたかがわかります。

 

サンプルに塔婆の日付を書き取って帳簿を調べれば、法事の有無、塔婆料の計上の有無までわかります。塔婆の仕入先から年間の仕入本数がわかります。

 

塔婆料として1本5,000円をもらっている寺院が年間3,000本の塔婆を仕入れていれば、在庫数と照らし合わせると、塔婆料の総額はすぐに判明します。大数観察といって、税務署の最も得意な調査手法の1つです。

 

日頃から繁華街の飲食店を相手に推計計算をしている税務署にとって、雑作もないことです。

 

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※本連載は、上田二郎氏による著書『税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)より一部を抜粋・再編集したものです。

税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門 第三版

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上田 二郎

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