老後資金、退職後30年生きるとすると…
多くの場合、国の公的年金の支給額は、老後に必要な生活資金の一部でしかありあません。2019年6月に金融庁がまとめた報告書は、退職後の世帯収入が公的年金だけのケースでは、老後の生活に必要な支出額は、毎月、公的年金を5万5千円上回るとしています。退職後30年生きるとすると、2,000万円不足することになります。この不足額は、サラリーマン自身が確保しなければなりません。
準備を開始する時期
老後資金の準備期間は短くなりがちです。なぜなら、ライフ・ステージでは住宅ローンの返済や教育資金の確保が優先し、また老後は将来遠くのことと思いがちなためです。実際に資金を準備するのは50代に入ってからという世帯も少なくありません。
しかし、短期間で多額の資金を用意するのは容易ではありません。少しでも早くから計画的に準備することが推奨されます。”老後は将来のこと”と考えているときでも、余裕ができた資金を老後資金の準備に回し、日常の生活資金を管理する預金口座とは別の口座に積み立てる、などの対策が必要なのです。
そして、50歳代で老後資金を意識し始めたときに、その時点で老後資金として確保している預金がいくらあるのかを確認し、今後どのくらいのペースで貯めれば2,000万円に達するのかを割り出す必要があります。以下に、老後の生活資金を確保する方法を取り上げますが、詳細は保険会社や証券会社、銀行等にお問い合わせください。
「退職給付」とは
多くの会社では、退職によって収入を失うサラリーマンのために、退職一時金や年金を支払う制度を設けています。この制度に基づいてサラリーマンの退職に際して支給されるお金が退職給付です。退職給付の制度がある会社のサラリーマンは、それを老後資金に充てることができます。
種類と内容
主な退職給付には、
①勤続年数に応じて定められた一時金を支給する退職一時金
②定められた金額の年金を退職後の一定期間あるいは終身で支給する確定給付年金
③会社が掛金を支払ってサラリーマンが運用する確定拠出年金
の3つがあります。確定給付年金と確定拠出年金は、年金のもとになる掛金を会社が支払う点は同じですが、運用責任と給付の内容に違いがあります。
確定給付年金と確定拠出年金
確定給付年金は、退職したサラリーマンに対して、勤続年数に応じて定められた額の年金を会社が支払う制度です。拠出した掛金を運用して年金の支給に必要な原資を確保する責任は会社にあります。サラリーマンから見れば、退職後にもらえる年金の額が勤続年数に応じて確定しているのが確定給付年金です。
他方、確定拠出年金は、会社が拠出した掛金はサラリーマン自身の責任で運用します。その運用によって確保できた資金の範囲内で年金が受け取れます。言い換えれば、会社は掛金を拠出しますが、サラリーマンが退職後に受け取れる年金の額は決まっていません。確定拠出年金では、会社の責任は掛金を拠出することで終了しているのです。
これを図示すると、図表2のようになります。
会社が拠出する掛金の額は、役職が上がるほど多くなるのが一般的です。仮に、22歳で就職してから60歳までの38年間を平均して、月2万円の掛金を会社が拠出する場合、掛金の総額は、以下のように912万円になります。
この掛金の総額と、それをサラリーマン自身が運用して得た運用利益との合計が、退職後に受け取る年金の原資になります。つまり、運用成績が良かったサラリーマンは912万円以上の年金を受け取れるし、悪かったサラリーマンは少ない額しか受け取れません。運用に失敗した場合はゼロになることもあるのが確定拠出年金なのです。