土地や建物の権利関係をはっきりさせる不動産登記
先祖代々、古くから所有している土地や建物の中には、登記されないままになっているものが数多く存在します。不動産登記というのは、法務局が管理する登記簿に記載することを言い、これによって土地や建物の権利関係をはっきりさせます。誰の持ちものかを明確にしておかないと、売買や取引をする際に不都合が生じてしまうからです。
例えば、祖父の代から住み続けている自宅の土地が未登記だった例がありました。土地と建物を購入した祖父は、随分前に亡くなっています。祖母は高齢ですが存命でした。
その状況で父が亡くなりました。相談者は相続人である母と子です。自宅を祖母に相続させても近々また相続になってしまうので、それなら自分たちで相続しようと思い、それで役所におもむいて調べたところ、自宅の登記はこれまで一度もなされていないことがわかったというのです(図表参照)。登記されていない不動産を相続するにはどうすればよいかというのが相談内容でした。
このような場合、祖父の相続が起こった時点にさかのぼって権利関係を整理しなければなりません。まず、第一にしなければならないのは、当然ながら自宅の登記です。
不動産の登記は非常に面倒な作業になりやすい
不動産を登記するには、測量し図面を作成する必要があります。測量は未登記の土地の権利者だけではできず、隣接地の権利者も立ち会って、現地の境界線を確認しなければなりません。そうでないと、「うちの土地はもっと広かった。境界をごまかしただろう」「いや、そんなことはない。確かに、ここまでと生前おじいさんから聞いている」などとトラブルになってしまうおそれがあるからです。
両家の間に道路や川など誰の目から見ても明らかな境界があれば別ですが、たいていの家庭は敷地4辺のいずれかは隣とつながっているものです。仮に3辺の隣地との境界がはっきりしなければ、3軒のお隣さんと話し合いをしなくてはなりません。その話し合いさえ、難なく進むかどうかはわかりません。お隣さんが1人でもゴネ出したら、それこそ裁判です。
無事に測量図面を作成しても、もし法務局にある地図(公図)と合致しない場合は、公図を訂正するなどの作業が必要になります。専門家に頼めば力にはなってくれますが、基本的なところは自分たちでやらなければならないので、やはり面倒は避けられません。
その後、登記に必要な書類を法務局に提出して手続きをします。ただし、この時点での登記は祖父の名前でします。一度購入者である祖父の名義にして、祖父が亡くなった頃の相続人で集まり、分割協議を経て分割協議書にサインをしてもらいます。つまり、当時やらずに済ませていた相続をやり直さなければならないのです。
祖父の死から10年も20年も経ってから相続をやり直すような場合は、相続人が代替わりしている可能性もあるので、骨の折れる作業となります。その上で、次の相続手続きをすることになります。
ここまででも相続人にとっては、かなり根気のいる作業になるはずです。それで済めばまだよいほうで、場合によってはこの先も事がスムーズに進まないことがあります。
相続人の代替わりにより、相続すべき人の数が多くなっている場合などは、「不動産でもらっても仕方がないから、金銭的な見返りが欲しい」と要求する者が出てくる可能性も高まります。あるいは、次回の連載でご紹介する代襲相続が絡んで事態がややこしくなる場合もあります。
ただ、自分たちが住んでいる家に住み続けたいだけなのに、なんと障害が多く面倒なことでしょうか。こんな事態にならないためには、未登記の不動産をそのまま放置しておかず、生前に整理しておくことが一番の対策と言えるでしょう。