前回は「小規模宅地等の特例」について、適用を受けられるケースや該当しない場合の対処法について解説しました。今回も引き続き、「小規模宅地等の特例」の適用を受けるための方法と留意点について見ていきます。

マイホームを持っていない子であれば・・・

前回の続きです。「小規模宅地等の特例」の適用を受けるための、もう1つの方向性としては、Aさんが「家なき子」になることです。相続では、次の要件を満たすとき、その人は「家なき子」となります。

 

●被相続人の配偶者、または相続開始直前において被相続人と同居していた一定の親族がいない
●相続開始前3年以内に日本国内にある自己または自己の配偶者の所有する家屋に居住したことがない
●相続開始の時から相続税の申告期限までその宅地等を有している

 

つまり「家なき子」とは、マイホームを持たない子という意味になります。相続開始前の3年以内に自分や妻名義の家を所有していない子が、親の自宅を相続によって取得し、そこに住み続ける場合に限って、小規模宅地等の特例を認めるというルールです。Aさんの場合は、これを利用するのがよさそうです。

 

まず、Aさんのマイホームを母に贈与して、母の名義にします。一方で、Aさんのマイホームの建物分だけ母の財産が増えますが、この心配は不要です。建物の相続税評価額は固定資産税評価額なので、たいした額にはならないからです。Aさんから母へ贈与する際の贈与税も同じです。

 

ただし、「家なき子」になろうとする場合、注意しなければならないのは、相続までに3年以上の時間が必要であることです。Aさんの母は70代で特に大きな持病もなかったので、今の平均寿命からすれば、相続までに3年以上の時間的猶予がある可能性は高いと判断しました。

 

3年以上が経過した後、いざ母親が亡くなり二次相続が発生したら、Aさんはそのまま母の自宅に住み続けて「家なき子」の要件をすべて満たします。これで相続税の申告時には、小規模宅地等の特例を適用することができ、元のAさんのマイホームも相続時にAさんに返ってきますから、何の問題もないというわけです。


 
Aさんのケースは、もろもろの事情から「家なき子」として小規模宅地等の特例の適用を目指しましたが、他の家族にも同じ方法がベストだとは限りません。親の暮らす自宅で子が同居できるのであれば、それが一番シンプルだと思います。

親が「老人ホーム」に入居している場合の注意点

しかし、親との同居を考える際に、1つだけ気をつけなければならないことがあります。それは、親が老人ホームに入居した場合です。

 

自宅というのは、「生活の基盤」という意味を含んでいます。とするならば、老人ホームで暮らしていた人は、老人ホームこそが自宅ではないか、という考えが出てきます。老人ホームを自宅とするのであれば、もともと暮らしていた「自宅」はもはや自宅ではなくなってしまいます。すると、それまで同居していた子は、相続の際に「自宅」を取得しようとしても、小規模宅地等の特例を認めてもらえません。これは実際に起こっている問題です。

 

そこで、老人ホームについての要件を見直す動きが起こり、平成25年度の改正でこちらも要件が緩和されました。具体的には、次の要件を満たしていれば、親が老人ホームで暮らし、一度も退所することなくそこで亡くなっても、「自宅」は自宅として小規模宅地等の特例の対象になります。

 

①被相続人に介護が必要なため入所したものであること

②その家屋が貸付等の用途に供されていないこと

 

要するに、「老人ホームへの入所は介護を受けるためであり、介護の必要がなくなれば自宅に戻って生活する意思が、本人にも家族にもある」ということが客観的に認められればいいということです。

 

親と同居するにせよ同居しないにせよ、親が亡くなればその自宅の相続は必ず課題になってきます。また、地価がそれほど高くなく相続税のかからない自宅でも、誰がどんな形で相続するかで問題が起こってくることもあります。ですから、なるべく早いうちから、相続の仕方を具体的に考えておく必要があると思います。そのためには、親と子が全員揃って将来的なビジョンを話し合い、全員が同じ方向に進んでいけることがベストです。

 

盆でも正月でもいいですから、家族全員が集まる機会にぜひ話題にしてみてはいかがでしょうか。親だけが悩んでいたり、1人の子が他の兄弟に相談なく勝手に決めていたり、皆が無言のうちに腹の探り合いをしていたり、突然の相続で何の用意もなく慌てふためいたりすることのないようにしていただきたいというのが、私の切なる願いです。

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    本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    倉持 公一郎

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