前回は「共有」が原因で起こりがちなトラブルを防ぐ、具体的な方法について解説しました。今回は、親が子どもに財産を残すとき、事前に済ませておくべき準備について見ていきます。

子どものために親が前もって済ませておくべきこと

前回ご紹介した姉妹の例では、やはりなんと言っても、父が生前のうちに相続を見越した準備をしておいてくれればよかったということに尽きます。不動産賃貸業にノータッチの娘たちが賃貸不動産を相続したら、相続方法や相続後にどれだけ戸惑うかということを、親として当然考えておかなければならなかったと思います。

 

この姉妹の父は突然の事故死だったのですが、人の死はいつ訪れるかわかりません。だからこそ、明日死んでも家族に迷惑をかけないよう、事前の対策をとっておくことをお勧めしたいのです。

 

相続を見越した準備とは、父親が自分の想いを娘たちに伝え、理解を得ることです。例えば、「Aの物件には思い入れがあるから、できるだけ残してほしい。でも、他の物件は困ったら売ってもかまわない」とか、「一番収益性の高いAの物件は姉が、BとCの物件は妹が相続してほしい。ただし、妹の物件は収益性が低いから、その代わりとして現預金のすべては妹を受取人にしておく」というような内容を伝えておくのです。

 

さらに、父は遺言書を書いておくと安心です。残された姉妹は遺言書を見ることで、父の遺志を改めて確認することができるからです。また、専門家に相続の相談をするにしても、遺言書を見せれば手続きがスピーディーになります。あるいは、父の生前に相続する物件が決まったのなら、姉妹に贈与しておいてもかまいません。

生前対策には贈与・信託といった方法もある

父がある程度の高齢で、相続までにできるだけ自分の財産を減らしておきたいという時には、贈与は大変心強い生前対策になります。

 

贈与税率は相続税率よりも高く設定されていますが、賃料収入などが父の財産として膨らんでいくことを思えば、贈与税を払ってでも娘たちに移転させておく利点はあると思います。2500万円の控除が受けられる相続時精算課税制度を使って贈与しておくという選択肢もあります。

 

また、贈与の他にも、信託という方法があります。信託とは、自分の財産を信頼の置ける人物や組織に預け(信託し)、その運用を自分の意思に沿って実行してもらうことです。信託の活用法は幅広いのですが、例えば不動産であれば、次のような使い方ができます。

 

父が業者に賃貸不動産を信託します。業者は利益が出るよう、その賃貸不動産を運用します。得られた利益は業者によって、娘2人に分配されます。この利益を受ける権利を信託受益権と言いますが、この権利を、信託契約を結ぶ段階で娘に贈与すると設定しておくのです。

 

そうすると、娘たちは不動産賃貸業に疎くても、運用は業者が行ってくれて、その利益だけを受け取ることができるのです。さらに、父は信託する時に、利益が父自身に支払われるよう決めることもできます。「不動産賃貸業を自分でするのは面倒だ」とか「自分には経営のセンスがないので誰かに頼みたい」という時などにも信託は便利です。

 

このケースでの姉妹は当初はまったく悪気などなく、お互いによかれと思って共有を決め
たのです。それでも、相続時にはもめてしまうものです。くれぐれも避けられる共有は避けていただきたいと思います。

 

どういう分割が自分たちのケースにふさわしいかということは、当事者である相続人では判断がつきにくい点も多いと思います。慣れない相続で何をするにも手探り状態で、心情的に譲れない部分や冷静になれない部分もあるでしょう。あるいは、単純に相続のルールや税法を知らないがために、よい分割方法を思いつかないこともあります。聞きかじりの分割方法で実行して、後で「しまった!」と後悔するかもしれません。

 

つまりは、少しでも早い段階で、専門家の知恵を借りて、さまざまな角度からのアドバイスをもらうべきだと思います。複数の選択肢の中から、納得してベストな分割法を選ぶことが大事なのです。

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ワケあり不動産の相続対策

ワケあり不動産の相続対策

倉持 公一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ワケあり不動産を持っていると相続は必ずこじれる。 相続はその人が築いてきた財産を引き継ぐ手続きであり、その人の一生を精算する機会でもあります。 にもかかわらず、相続人同士が財産を奪い合うといったこじれた相続は後…

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