安心してください…インボイス登録は見送っても大丈夫ですよ。その“2つの理由”【税理士が解説】

安心してください…インボイス登録は見送っても大丈夫ですよ。その“2つの理由”【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

10月1日からインボイス制度がスタートします。免税事業者の間では「登録しないと取引を切られる」などのウワサがあり、消費税を納税してでもインボイス登録をすべきか否かで悩んでいる方は多いでしょう。しかし、ご安心ください。たいていのケースでは、インボイス登録を見送っても問題ありません。なぜなら、インボイスが発行できないという理由だけで取引を切られる可能性は低く、申請が10月1日以降に遅れた場合のリスクも低いからです。板山翔税理士がわかりやすく解説します。

 

――インボイス登録はもう少し様子を見たいのですが、申請しなくても大丈夫でしょうか?

 

板山翔税理士:「インボイスを発行できないという理由だけで取引を切られる可能性は低く、申請が10月1日以降に遅れた場合のリスクも低いので、まだ様子見でも大丈夫ですよ。」

インボイス登録する?しない?

インボイス制度が始まる10月1日までとうとう2ヵ月を切りましたね。免税事業者の方は、インボイス登録するのか否か、そろそろ最終判断しないといけません。

 

9月30日までにインボイス登録の申請書を提出すれば、10月1日登録として取り扱ってもらえるので、提出期限はまだ少し先です。

 

しかし、実際は申請してから登録通知が届くまでe-tax提出で約1ヵ月、書面提出で約2ヵ月半かかるそうですので、インボイス登録したいならそろそろe-taxで申請しておかないと、申請したものの登録番号がわからない…なんて混乱が起きるかもしれません。

 

ただし、インボイス登録しないと取引を避けられるような兆候がなければ、インボイス登録はせずに、もう少し様子を見ても大丈夫です。

 

なぜなら、インボイスが発行できないという理由だけで取引を切られる可能性は低いからです。「免税事業者は仕事を失う」とか「廃業者がたくさん出る」なんてウワサもよく耳にしますが、そんな大げさな事態は起こっていません。

 

もちろんインボイスをきっかけに値引されたり取引内容を見直されたりことは十分ありえますが。

 

また、10月1日以降に遅れて申請した場合のリスクも2つありますが、それほど大きなリスクではないので、もし取引を切られそうになったらそのときに申請すればいい、と割り切ってもいいでしょう。

未登録だからといって取引を切られる可能性は低い

課税事業者が免税事業者と取引したくない理由として、よく耳にするのは次の2つです。

 

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【免税事業者と取引したくない理由】

①消費税の納税負担が増えるから

②システム対応が面倒だから

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2つともたしかにそのとおりですが、本当にこれだけの理由で取引を切られることがあるのでしょうか?

 

■「納税負担が増える」といっても2%程度。わざわざ別の取引先を探すだろうか?

インボイス制度が始まるまでは、免税事業者に対して消費税分10%を支払っても、課税事業者は10%まるまる消費税の納税額を減らして(控除して)もらえました。

 

それがインボイス制度が始まる令和5年10月から3年間は、8%分しか控除が受けられなくなるので、2%分消費税の納税負担は増えてしまいます。だから免税事業者と取引したくないと考える気持ちはもちろんわかります。

 

しかし、それなら免税事業者が2%分取引価格を値引きすれば、課税事業者の負担はほとんど変わりません。

 

そもそも、2%程度の負担増のためにわざわざ別の取引先を探すでしょうか? 気にせずこれまで通りの価格で取引する課税事業者も多いことでしょう。納税負担が2%増えるからという理由だけで、取引停止にまでなるケースは少ないはずです。

 

■システム改修は「すべての免税事業者との取引を断ち切らないかぎり」避けられない

たとえ値引をしてもらっても、8%控除の免税事業者と10%控除の課税事業者で控除率が変わるため、会計システムや原価計算システムなどのシステム改修が必要になり、入力作業、原価計算などが複雑になります。これらが面倒なので免税事業者と取引したくないと考えるのももっともです。

 

しかし、すべての免税事業者との取引を断ち切らないかぎり、結局は免税事業者との取引の入力作業やシステム改修は避けられません。

 

免税事業者の大半がインボイス登録するような状況ならともかく、免税事業者のインボイス登録はあまり進んでおらず、すべての免税事業者との取引を断ち切るのは困難です。

 

したがって、システム対応が面倒だからという理由だけで取引を切られるケースも少ないはずです。

 

このように、納税負担が増えるから、システム改修が面倒だからといって、それだけの理由で取引を切られる可能性は低く、過度に取引停止をおそれてインボイス登録する必要はないでしょう。

「登録申請せざるを得ないケース」もあるにはある

とはいえ、さまざまな事情で登録申請せざるを得ないケースはあります。例えば、

 

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【登録申請せざるを得ないケースの例】

①インボイスが発行できないと小規模事業者であることがわかってしまうので、取引先として選ばれづらくなってしまうケース

 

②主な得意先が価格交渉が面倒、システム改修が難しいなどの理由で「免税事業者とは取引しない」という姿勢を貫くケース

 

③同じ商品を多数の代理店が販売している場合など、混乱を避けるため一律にインボイス登録を指導されるケース

 

④製造→卸売→小売などのサプライチェーンの中で、免税事業者が入ると価格設定がしづらいなどの理由で敬遠されるケース

 

⑤得意先がインボイス制度について理解しておらず、価格交渉にすら応じてもらえないケース

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などなど、挙げればキリがありません。ただし、いずれもレアケースや業界特有の事情であるものが多いので、いずれかに当てはまりそうな兆候がなければ、登録申請を見送っても問題ないでしょう。

インボイス申請が遅れた場合のリスクとは?

インボイス申請が10月1日以降になってしまった場合、次の2つのリスクがあります。

 

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【インボイス申請が遅れた場合の2つのリスク】

①申請書提出から登録まで15日のタイムラグがある

②登録から2年間は免税事業者に戻れない

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9月30日までに申請書を提出すれば、インボイス開始の10月1日からすぐにインボイス登録してもらえます。

 

しかし、申請書の提出が10月1日以降になってしまった場合、登録希望日を申請書に記載する必要があるのですが、その希望日は提出日から15日以降の日を記載する決まりになっています。つまり、申請書を提出してから登録まで15日間のタイムラグがあるということで、申請してすぐにインボイスが発行できるわけではありません。

 

また、インボイスの登録日が10月1日ではなく、10月2日以降である場合、登録日から2年が経過する日の属する課税期間までは、免税事業者に戻れないため、課税事業者でいることが強制されます。

 

9月30日までに申請書を提出してインボイスの登録日が10月1日である場合は、この2年間の縛りはないので、その翌年度にすぐに免税事業者に戻ることも可能です。(その場合、翌年度が始まる日の15日前までに、登録取消届出書を提出しなければなりませんが。)

 

15日のタイムラグよりこの2年間の縛りの方がリスクは大きいですが、令和8年9月30日までは2割特例*もありますし、インボイス制度が始まった後も慎重に様子を見てからインボイス登録したのであれば、すぐに免税に戻りたいとなることも少ないでしょう(*2割特例…免税事業者がインボイス登録して課税事業者となった場合、最大でも売上で預かった消費税の2割を納税すればよいという特例)。

まとめ

このように、インボイスが発行できないという理由だけで取引を切られる可能性は低く、申請が10月1日以降に遅れた場合のリスクも低いので、インボイス登録はまだ様子見でも大丈夫です。

 

インボイス登録するなって話ではないので、もちろん取引を切られるリスクが高いと思うのであれば、消費税を納税してでもインボイス登録したらいいと思います。3年間は2割特例もありますしね。

 

あくまでインボイス登録は任意ですので、周りに流される必要はありません。

 

納税負担・事務負担を避けるためにインボイス登録は様子を見るのか、取引が切られるリスクを避けるために納税してでもインボイス登録するのか…。どちらの方が少ないダメージですむのか、最後は自分で判断しましょう。

 

 

板山 翔

板山翔税理士事務所 代表、税理士

 

おそらく日本初の「オンライン専門の税理士事務所」の創設者。自社の事業を「税理士業」ではなく、「経営に必要な情報をオンラインで提供する事業」と捉え、経営戦略コンサルタントとしても活動している。従業員5名以下の小さな会社の経営者を中心に、「小さな会社だからこそできる差別化戦略」の立て方や、「短期間で売上アップするためのマーケティング戦略」、「長期的に資産を形成していくための財務戦略」などを教えている。

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