前回は、ワケあり物件への対処方法と、なぜそういった不動産を抱えることになるのか解説しました。今回は、「共有」が原因で起こるトラブルについて見ていきます。

安易な判断で姉妹関係が険悪に・・・

安易な不動産の共有は、しばしばトラブルの種となります。実は、「不動産の共有は避けられるなら避けるべきだ」といったことは、本連載に限らず、いろいろな相続関連の書籍に書かれています。にもかかわらず、いまだに不動産の共有は後を絶たず、そこから生まれるトラブルもまた同様です。ですから、ここでもう一度、不動産の共有は要注意であると警告しておきたいと思います。

 

例えば、不動産賃貸業をしていた父が不慮の事故で亡くなり、相続が発生した事例で考えてみます。配偶者である母はすでに他界しており、相続人は2人の娘だけです。この姉妹はすでに両方とも結婚しており、いずれも親との同居はしていません。また、父のやっていた不動産賃貸業にもまったくノータッチでした。

 

相続にあたって、姉妹は同じ思いでいました。それは、「賃貸アパートや賃貸マンションをもらっても経営の経験もないし困ってしまう。けれども、せっかく父が精力を傾けていた物件を簡単に手放してしまうのも忍びない」というものです。そこで、2人は「とりあえず共有して様子を見よう。自分たちの手に余ったら、売るなり業者に預けるなりすればいい」という結論を出し、ともに分割協議書にサインをしました。

 

ところが、いざ共有で不動産賃貸業を行ってみると、いろいろと面倒なことが起きてきます。何を決めるにしても2人で相談しなければならないので、時間も手間も1人でやるより余計にかかってしまうのです。また、管理業者などからも「連絡の窓口をどちらか1人にしてほしい」との要望が入るようになりました。

 

「やっぱり共有では無理がある」と思った姉妹は、話し合いで物件を分けることにしました。ちょうど2人とも不動産賃貸業のおもしろさを実感するようになり、「自分だけの采配で運用できる物件が欲しい」と思い始めてもいました。

 

しかし、ここでトラブルが発生しました。というのも、相続した賃貸不動産のうち、収益の高い物件は賃貸マンション1つだけで、残りは収支が差し引きでゼロに近いもしくは赤字の状態だったからです。当然のことながら、欲しい物件は2人ともその収益の高い賃貸マンションです。

 

姉は「私の自宅のほうが賃貸マンションに近いので、立地的にも管理がしやすい」という理由で権利を主張します。妹は「相続以降、実質的に業者との窓口になっていたのは私なのだから、私がもらってもいいはずでしょ」と言い張ります。姉妹の間で口論になり、争いが起きてしまいました。

 

さて共有にしたことで、このような状態に陥っている相続案件はよく見られますが、このような場合に、どうすれば解決に導けるかを確認していきます。

 

トラブルを解決するには「共有状態」の解消しかない

解決するには、まず共有状態を解消しなければなりません。

 

考えられる1つの方法は「区分所有」にすることです。他の物件はともかく、収益の高い優良な賃貸マンションは2人とも欲しがっているのですから、どこかで半分に区切って、その半分ずつをお互いが自由にできる状態を作り出すのです。区分所有は、例えば1階から4階までを妹が所有し、5階から8階までを姉が所有するといったイメージです。

 

しかし、すでに険悪になっている姉妹ですから、2人とも市場価格の高い8階を欲しがるなど、区分所有を決める段階でまた話が進まなくなってしまいました。かといって、どちらか一方が自分の持分をもう一方に売却、もしくは贈与するということも、お互いが納得しませんでした。

 

そう考えた末、争いを治めるには、やはり売却しかないということになりました。そのまま売却をして、その売却価額を折半したのです。争いを引き起こしている元である優良不動産を処分することによって争いを治める、けんか両成敗のようなものです。

 

2人とも所有しておきたい不動産だったわけですから、それを売却してしまうというのは、ある意味で強硬手段でもありますが、終盤になると2人とも「どうすればうまく解決できるか」という方向に考えが変わり、冷静になることができたために、裁判沙汰にはならず、その後の関係が途絶えるようなこともありませんでした。

 

結局、相続発生時に「自分たちの手に余ったら、売ればいい」と話していた通りにはなったわけですが、せっかくおもしろくなり始めていた不動産賃貸業に対するやる気は薄れてしまい、他の賃貸不動産もすべて売却し、換価分割という方法で解決することになり、父が守ろうとしていた不動産はすべてなくなってしまいました。

 

最終的には、何とか2人の関係が元に戻るようなところまではこぎつけられましたが、この一連の騒動が初めから起こらないようにしていれば、誰がなんと言おうとそれがベストであったことは間違いありません。

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ワケあり不動産の相続対策

ワケあり不動産の相続対策

倉持 公一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ワケあり不動産を持っていると相続は必ずこじれる。 相続はその人が築いてきた財産を引き継ぐ手続きであり、その人の一生を精算する機会でもあります。 にもかかわらず、相続人同士が財産を奪い合うといったこじれた相続は後…

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