前回は、収益性の低い賃貸不動産について考えてみました。今回は、そういった物件への対処方法と、そもそもなぜ、ワケあり不動産を抱えることになるのかについて見ていきます。

選択肢は「修繕」「売却」の2つだけ

収益性の低い不動産を持っている場合、選択肢は主に2つです。

 

1つは、高額な資金を投入してでも物件を修繕する道です。もう1つは、お荷物な物件から手を引く、つまり土地と建物を売却するという道です。多くの人がこの分岐点で立ち止まり、頭を抱えています。なぜなら、どちらを選んでもリスクはついてくるからです。

 

前者を選んだ場合のリスクは、「修繕によって物件の競争力がよみがえるとは限らない」ということです。例えば、最寄り駅から歩いて15分もかかるとか、周辺に買い物できるコンビニやスーパーがないとか、夜になると暗くて治安が心配など、立地の悪い物件は建物だけがきれいになっても、「住みたい」と思える魅力には残念ながら直結しません。

 

賃貸不動産の良しあしというのは、9割方が立地で決まりますので、少々年季が入っていても駅から徒歩3分のアパートには、利便性という点で勝てないのです。また、修繕は一度きりではなく、物件を保有する限り、その先も定期的に繰り返していかなければならないということも忘れてはなりません。

 

次に後者を選んだ場合のリスクですが、購入価格よりかなり安い価格での売却になってしまう可能性が高いということです。バブル以降、土地の価格は右肩下がりですから、その頃に買った土地ではガッカリするような金額にしかならないケースが珍しくありません。あるいは、逆に売却によって利益(売却益)が出る場合は、譲渡所得税がかかってくる可能性があるという点もリスクとなるでしょう。

どちらのほうが優良な資産に近づくか?

修繕と売却、どちらの道を選ぶべきかは、その物件によりけりなので、ここで一概に「どちらがいい」と決めつけることはできません。ただ1つだけ言えることは、「どちらのほうが優良な資産に近づくか」を考えて選択しましょう、ということです。優良な資産にしておけば、相続するにしても負担が少なくなります。

 

修繕費よりも収益性のほうが高くなると見込めるのであれば、それは結果として黒字になりますから、優良不動産に近づきます。逆に、修繕費が回収できず赤字になってしまうようであれば、現状に輪をかけて不良不動産化してしまうので危険です。

 

修繕の道が却下ならば必然的に売却という話になりますが、その時はできるだけ売却益を出さないような工夫をする必要があります。例えば、売却したお金でもっと条件のいい別の土地を購入し、そこに賃貸不動産を建てるといったやり方があります。この方法は「事業用資産の買換え」として税金面での特例が受けられます。

 

この特例では、売却した金額より買換えた金額のほうが多い時は、売却した金額に20%をかけた額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。売却した金額より買換えた金額のほうが少ない時は、その差額と買換えた金額に20%をかけた額との合計額を収入金額とし、譲渡所得の計算を行います。

賃貸不動産はその後の経営まで考えて購入を

経営のことを考えず、節税のためだけに賃貸不動産を購入してしまった場合の対処法を確認してきましたが、これは収益性の低い不動産を購入してしまった、もしくは所有している場合のほとんどにあてはまる対処法です。ここで、改めてそういった不動産が生まれてしまった原因について考えていきます。

 

そもそも、なぜこんなワケあり不動産を抱え込むことになってしまったのかについて、きちんと原因を検証しておかなければ、また同じ轍を踏んでしまうかもしれないからです。率直に言ってしまうと、この場合のつまずきの原因は、「節税のためだけに賃貸不動産を建てた」ことに尽きます。「経営には興味も自信もないけれど、とりあえず節税になるなら」と考えたことが、そもそもの間違いの始まりです。

 

賃貸アパートにせよ、テナントビルにせよ、賃貸不動産を建てるということは「不動産賃貸業を始める」、つまり「経営を始める」ということを意味します。

 

経営にはリスクがつきものです。大会社の社長であれ個人商店の事業主であれ、いつも危機感を持って日々の経営にあたっています。それは不動産賃貸業でも同じはずです。賃貸不動産を建てるならそれなりの慎重さと覚悟が必要だと思うのです。

 

本当にこの立地で賃貸不動産を建てて入居者が来るのか?
収益性はありそうか?
周囲の同じような条件の物件の様子はどうか?
今だけでなく10年後、20年後にも勝算はあるのか?
万が一、うまくいかなかった時にはどうするのか?
賃貸不動産を建てることが、いずれ相続することになる家族のためになるか?

 

こういったことを1つひとつシミュレーションして検討し、家族やできれば信頼の置ける専門家にも相談して、やるかやらないかを判断すべきです。

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ワケあり不動産の相続対策

ワケあり不動産の相続対策

倉持 公一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ワケあり不動産を持っていると相続は必ずこじれる。 相続はその人が築いてきた財産を引き継ぐ手続きであり、その人の一生を精算する機会でもあります。 にもかかわらず、相続人同士が財産を奪い合うといったこじれた相続は後…

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