公正証書遺言を作成する際の注意点
公正証書遺言を作成する際には、次の点に注意しましょう。
元気なうちに作成する
「私は元気なので、遺言書を作るのはまだ早い」という方は少なくありません。しかし、公正証書遺言は元気なうちに作成することを強くおすすめします。なぜなら、仮に重い認知症になったり意思疎通が困難な状態となったりしてしまうと、もはや有効な遺言書を作成することは困難であるためです。
また、一般的には高齢になるほど判断能力が衰える傾向にあるため、遺言書を作成した時期が高齢であればあるほど、遺言によって自分の取り分が減った相続人などから遺言の無効が主張されるリスクが高くなるためです。
弁護士のもとには相続にまつわるご相談が数多く寄せられますが、中には遺言書が遺っていれば解決できた可能性のあるトラブルも少なくありません。遺言書を作成する時期を逸してしまい、遺言書の作成ができなくなってしまわないように、遺言書の作成は元気なうちに行うことをおすすめします。
なお、遺言書が複数通存在する場合には、内容にもよりますが、もっとも新しい日付のものが有効とされます。そのため、公正証書遺言の作成した後に、遺産を渡したい相手などに変更が生じ、遺言書の内容を変更したいと考えた場合には、新たに遺言書を作成することで遺言内容を更新することが可能です。
遺留分に配慮する
公正証書遺言を作成する際には、遺留分について理解しておかなければなりません。遺留分とは、配偶者や子など一定の相続人に保証された、相続での最低限の取り分です。
遺留分割合は、それぞれ次のとおりです。なお、兄弟姉妹や甥姪に遺留分はありません。
・配偶者または子が相続人である場合: 2分の1
・父母や祖父母など直系尊属のみが相続人である場合:3分の1
・兄弟姉妹や甥姪:遺留分なし
相続人が複数いる場合には、上記の遺留分割合に、法定相続分という相続の割合を乗じたものが、最終的な遺留分割合になります。
誤解している人も少なくありませんが、遺留分を侵害した遺言書も有効です。しかし、遺留分を侵害した内容の遺言書を遺せば、相続が起きた後で遺留分を侵害された相続人から遺産を多く受け取った者などに対して「遺留分侵害額請求」がなされ、トラブルとなる可能性があります。
遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分相当額を金銭で支払うよう請求することです。
この請求がなされると、請求を受けた者は遺留分相当額の金銭を実際に支払わなければなりません。
しかし、遺産の大半が不動産など換価の難しいものである場合には、支払い原資の確保に苦慮する事態ともなりかねないでしょう。このような事態を避けるため、公正証書遺言を作成する際には遺留分について正しく理解をしたうえで、遺留分に配慮した遺言書を作成するなど、別途検討をすることが重要です。
付言事項を活用する
公正証書遺言には、本文のほかに、付言事項を記載することができます。付言事項とは本文の後に付け足す手紙のようなものであり、法的な拘束力はありません。たとえば、「いままでありがとう」など感謝の想いや、「これからも兄弟仲良く暮らしてください」など遺言者の希望を記載することが多いでしょう。
付言事項に法的効果はないものの、うまく活用することで相続争いを防ぐ効果が期待できます。たとえば、やむを得ず遺留分を侵害する遺言を作成した場合に、その理由を記すことなどが挙げられます。例として、会社経営者である遺言者が遺産の大半を長男に相続させるという内容の遺言を作成するにあたって、次の付言事項を記載することなどが考えられます。
長男の一郎は、これまで私が人生を懸けて築き、守ってきた会社(株式会社〇〇)を継いでください。そのために、会社の株を含め多くの財産を相続させる内容の遺言を作成しました。会社や従業員のことを、どうかよろしく頼みます。
そして、私の遺産はその大半が株式会社〇〇の経営に欠かせないものです。二男の次郎は、この遺言を見て不公平であると感じるかもしれません。しかし、一郎に相続させた財産はその大半が簡単に換価できるものではありませんし、一郎は経営者としての責任も、財産とともに相続することとなります。そのため、次郎はどうか私の想いを理解し、一郎に対して遺留分の請求などをしないよう心よりお願いいたします。
たった二人の兄弟ですから、これからも支え合って暮らしてください。
このような内容を付言事項として記すことで、法的な拘束力はありませんが、遺留分侵害額請求の抑止力となることが期待できます。なお、自社株の相続については推定相続人の合意のもと遺留分から除外する特例なども存在するので、あらかじめ弁護士へご相談ください。
専門家にサポートを依頼する
公正証書遺言は、公証役場と直接やり取りをすることで、弁護士などの専門家に依頼することなく作成することも可能です。しかし、専門家のサポートを受けて作成したほうがよいでしょう。なぜなら、公証役場はあくまでもすでに決まった内容を公正証書にする場であり、遺言内容についてのアドバイスは受けられないことが一般的であるためです。
たとえば、長男と二男がいたとして、長男に全財産を相続させる内容の遺言書を作ることはできます。ただし、このような遺言書を作れば、将来遺留分侵害額請求がなされてトラブルに発展する可能性があることは先ほど解説したとおりです。
直接公証役場とやり取りをした場合には、「この内容は遺留分を侵害していて、将来トラブルになるリスクがありますが本当にこれでよいですか?」などというアドバイスは受けられないことが多いでしょう。
このように、法的に有効な遺言書を作成したとしても、将来トラブルの原因となるケースは少なくありません。そのため、将来に問題を残さないためには専門家のサポートを受けて公正証書遺言を作ることをおすすめします。
遺言書作成はなるべく早めに
公正証書遺言を作成する際には、公証役場の手数料や必要書類の取得費用などがかかります。また、作成のサポートを専門家へ依頼した場合には、別途専門家への報酬も必要です。
公正証書遺言を作成するにはこのような費用がかかりますが、将来に問題を残さないためにはできるだけ早くから遺言書を作成しておくとよいでしょう。また、作成にあたっては、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
<参考文献>
※ 日本公証人連合会:Q7.公正証書遺言の作成手数料は、どれくらいですか?
堅田 勇気
Authense法律事務所
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】