ひとり暮らしの母親の世話は、近所に嫁いだ妹に一任
今回の相談者は、50代の山田さんです。80代で亡くなった母親の相続の件で相談があるということで、筆者の事務所を訪れました。
山田さんは3人きょうだいの長女で、40代の妹と弟がいます。母親が2カ月前に亡くなったため、相続の手続きが必要ですが、妹とギクシャクしてしまい、話が進まないといいます。
山田さんの実家は神奈川県です。山田さんと弟は大学卒業後にすぐ実家を離れ、結婚。いまは都内に自宅マンションを保有しています。妹は30代で中学時代の同級生と結婚するまで、ずっと実家で両親とともに暮らしていました。いまの住まいは結婚相手の実家で、自分の実家から徒歩3分程度のご近所です。
山田さんの父親は10年前に亡くなり、母親はその後ひとり暮らしをしていましたが、70代後半になって介護認定を受けました。妹が毎日様子を見に行っていたものの、1人にするには不安があり、地元の介護施設へ入所しました。
「施設入所の保証人は妹が引き受けました。そのため、母のお金周りは妹にすべて任せていたのですが…」
「通帳を見せて?」の言葉に、無言で睨み返し…
山田さんの母親は遺言書を残さずに亡くなりました。そのため、きょうだいでの話し合いが必要ですが、妹は頑として、母親の通帳類を見せないといいます。
「じつは施設の入所前に、母から通帳を見せてもらったことがあるんです。そのときの残高はだいたい4000万円ぐらいでした。父はわりと高給取りで、母の収入は父の遺族年金として、2ヵ月ごとに50万円近いお金が振り込まれていたのです。入所先の介護施設は食費を合わせても20万円ちょっとだったので、足は出ていないはずなのですが…」
「〈通帳はどうなってるの?〉〈通帳を見せて〉といっても、無言で睨み返すだけで…」
通帳がなければ相続手続きが進みません。打ち合わせに同席していた提携先の弁護士は、預金調査を行うようアドバイスし、山田さんも了承しました。
妹から届いた、「まるで走り書き」の手紙
預金調査はある程度の時間を要しますが、不動産はすぐに確認できます。
山田さんから依頼を受けた筆者の事務所で、およそ1500万円の評価である実家の登記簿を取得して確認したところ、なんと、母親が施設へ入所する直前、母親から妹へ贈与されていることが判明しました。
それを山田さんに報告したところ、想定外の結果に愕然。妹の携帯に電話をかけまくったそうですが、まったく通じません。
ところがその数日後、妹から〈母親の財産はすべて自分が相続する、山田さんには放棄してもらいたい〉という、便せんに走り書きした簡単な文書が送られてきました。
山田さんは、妹の対応に激怒してしまいました。
筆者と提携先の弁護士は、預金などの明細をオープンにして遺産分割協議をしてはどうかと提案しました。
遺産分割協議の提案に、ラインで「結構です」と一言
山田さんは、筆者と弁護士のアドバイス通り、妹に遺産分割協議の提案をしましたが、妹からは「結構です」という簡単なラインが来たのみで、その後は連絡も拒否するようになってしまいました。
そのことから、山田さんは弟に連絡をとりましたが、どうやら妹と話が通じているようで、対応は妹同様、取り付く島がないといった状況です。
「ここまで来てしまったら、状況を動かすには調停しかありません」と弁護士がいうと、山田さんも、それに従うことを決断しました。
母親の生前から深まっていた「姉妹間の溝」で、とうとう調停に
相続発生後であっても、相続人であれば預金の履歴の入手は可能です。山田さんのケースのように詳細が不明でも、履歴を入手し、確認することができます。また、当事者同士の関係から、遺産分割協議がむずかしい、あるいはできない場合は、弁護士に依頼して家庭裁判所の調停を申請することになります。
山田さんの場合、母親の生前から長い間、相続人同士のコミュニケーション不足があり、それが感情の行き違いを大きくしたように見受けられました。
きょうだい間の関係悪化を回避するには、日頃より風通しを良くしておくこと、親の状況についても情報共有を行い、だれかに負担が偏る状況を作らないことが重要だといえるでしょう。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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