(※写真はイメージです/PIXTA)

老後の病気として代表的な「がん」。再発・転移などで長くがん治療を続けていると、どこかのタイミングで「もうこれ以上治療手段がない」と主治医からつらい宣告をされることがあります。そんなとき、自由診療による「先端医療」という選択肢が考えられるかもしれません。しかし、先端医療を選ぶ際には知っておくべき注意点があると、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏はいいます。本記事では、塚田京子さん(仮名)の事例とともに、がん治療から老後破産を招かないための対策を、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が解説します。

塚田さん夫妻が「最悪の事態」に陥ってしまったワケ

信頼していた主治医から見捨てられ、自由診療の免疫療法を選択し、最後はがんが悪化、貯蓄のすべてを失ってしまった塚田さん夫妻。どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。

 

確かに主治医から治療終了の宣告をされ、茫然自失となってしまったことを推察できます。そして、なにかほかに手段がないか探すこと自体は決しておかしいことではないと思います。

 

しかし、今回の塚田さん夫妻の判断は、あまりに性急であったといえるのかもしれません。ネット検索を行い、塚田さん夫妻に希望を抱かせる印象的なタイトルに飛びつき、一度医療相談会に参加しただけで重要な判断をしてしまったわけですが、最終的な結果から2つの問題点が見えてきます。以下でその2点を確認していきましょう。

 

1.ネット検索だけの情報収集

塚田さん夫妻は、ネット検索で見つけたがん免疫療法を受けることをすぐに決めてしまいましたが、末期がんの治療という非常にシビア選択を、そのように簡単に決めてしまってよかったのでしょうか。

 

塚田さん夫妻のように、医療に対する詳しい知識を持たない一般人が判断するためには、もう少し情報収集し、多角的な視点から結論を出す必要があります。塚田さん夫妻は、免疫療法の説明を受けて、「通常の病院では受けられない特殊で高額な先端医療=それだけ治療効果も高い」という認識になったのですが、残念ながらこれは誤っています。

 

免疫療法を行う医師からは、当然ですがその治療のよいところについて説明があります。その説明から、塚田さん夫妻は上記の認識を持ってしまったのですが、その治療に対して別の医師から客観的に意見をもらうなどの必要があったのです。

 

2.失われた金銭感覚

2つ目の問題点ですが、それは「貯蓄残高=支払える金額」となってしまったことです。一般的になにか出費を考えたとき、口座にある残高をすべて使っていいとは考えないはずです。それはなぜかといえば、その出費のためだけの貯蓄ではないからです。

 

塚田さん夫妻は、末期がんにもかかわらず主治医から治療終了の宣告を受けて、精神的にかなり動揺していたと思われます。そのためか、金銭感覚もかなり失われていた可能性も。「がん」という命にもかかわる病気であったことから、とにかく希望を持てる治療にありつきたい、医療と関わっていたいという大きな不安が、冷静な判断力を失わせたのかもしれません。

 

ただ仮にがん治療がうまくいったとしても、その後の生活において夫婦にとっても経済的なリスクが消えたわけではありません。ほかのアクシデントに対する経済的備えを失うことに繋がるからです。

がん標準治療終了後の選択

塚田さん夫妻は、『末期がんでもあきらめない、ステージ4でも完治できる』というタイトルとその中身に惹かれ、最終的に自由診療として行われるがん免疫療法を選択しました。そのようななか、国立がん研究センターからは、

 

「自由診療として行われる免疫療法」は、効果が証明されておらず、医療として確立されたものではありません。「自由診療として行われる免疫療法」を考える場合には、治療効果・安全性・費用について慎重な確認が必要ですので、必ず担当医に話しましょう。

 

といったメッセージが発信されています。こういったメッセージを発信するということは、この「自由診療として行われる免疫療法」において、多くの健康被害やトラブルなどが発生していることの現れである可能性があります。どちらにしても医療の選択は性急な自己判断ではなく、相当に慎重な検討が必要であるといえます。

 

適切な相談場所を頼りに

塚田さんが今回、ネット検索という手段をとったのはなぜでしょうか。もちろんネット検索は手軽で便利なため、塚田さんと同じ立場になったら、誰でもその手段をとるかもしれません。

 

ただ、ネット検索だけで最終判断にまでに至ってしまった理由のひとつに、「どこに相談してよいかわからない」ということがあったかもしれません。塚田さん夫妻は主治医に見捨てられたと思い込んでしまい、主治医に相談という1番シンプルな選択肢を失くしてしまいましたが、やはり、主治医に客観的な意見を求めるのが第一だと思います。なぜなら、塚田さんのがんの病状を最もよく知っている医療の専門家だからです。

 

主治医以外に別の意見を望む場合、国立がん研究センターでは、

 

公的制度に基づく臨床試験、治験などの「研究段階の医療として行われる免疫療法」を熟知した医師にセカンドオピニオンを聞くことをお勧めします。セカンドオピニオンを聞きたいときも、担当医に相談しましょう。

 

と案内しています。そして、もし主治医に気軽に相談ができない場合には、看護師や受付などの医療スタッフや、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている『がん相談支援センター』に相談することも選択肢として存在します。

 

特にがん相談支援センターは、がん治療やセカンドオピニオンのことはもちろん、メンタル面、公的保障、仕事、お金のことなど、がん患者さんに関するあらゆる相談を無料で行うことができる場所です。こうしたことをあらかじめ知っておくと、予想外の展開になった場合でも、慌てて結論を出すことがなくなるかもしれません。

 

適切な予算管理とともに

今回、塚田さん夫妻は、自由診療のがん免疫療法を受ける選択をし、結局がんは悪化、貯蓄のすべてを失うという、最悪の結果になりました。治療の選択時の誤りとともに、費用面からの治療選択という点の問題についても考えてみましょう。

 

自由診療のがん免疫療法で仮にがんが治ったとしても、その先の塚田さん夫妻に経済的なリスクは存在します。それ以降さらに年を重ねるわけですから、そのリスクは増え続けていくでしょう。塚田さん夫妻には、それ以降の資産管理をふまえた出費の決定という感覚が失われていたのです。

 

貯蓄がない状態で万が一塚田さん夫妻に、介護が発生してしまった場合を想像するとわかりやすいです。自分たちにお金がなければ、子育てで大変な時期の塚田さんの長女、長男一家に頼り、子供の家族も経済的に困窮……そんなことが頭にあると自分たちの出費をもう少し冷静に考えられたかもしれません。

 

今回の塚田さんの事例は、第3者へ相談ができなかったことが、冷静な判断ができなくなっていた塚田さん夫妻に性急な決断をさせた要因といえます。

 

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