別居中の夫の死
渡部幸さん(仮名/68歳)は長年公務員として勤務し、現在は年金生活を営んでいます。渡部さんには1歳年上の夫の哲也さん(仮名)がいますが、お互いの生活スタイルの違いや、渡部さんに家事はすべて任せきりにする哲也さんとの生活が嫌になり、22年前に家を出てアパート暮らしを選択していたのでした。
当初は距離を空けて冷却期間のつもりで別居したのですが、どちらもその後のことについて話すことはなく、職場も同じでしたので体裁を気にしてなかなか離婚に踏みきれず、関係性は悪化する一方。必要最低限の会話しかしないまま22年が経過してしまったのでした。
渡部さん自身、現役のころは年収600万円程度あり自分が生活していくには十分でした。退職したあとも退職金と合計し4,000万円の資産を持ち、公的年金は1人で月額20万円以上受け取ることができるため、十分生活していける余力はありました。別居してからはほとんど連絡を取らず、夫の存在は心のなかで遠いものになっていました。
そんな生活が22年続いたとき、突然夫の姉である明美さん(仮名)から夫の死を知らせる連絡がありました。夫の近くに住んでいた義姉はこの22年間、1人で暮らす家事の苦手な弟を気遣い、家におかずを届けたり家の掃除をしたりと面倒をみていました。ある日、いつものようにその日の食事を届けに行くと、寝室で亡くなっている哲也さんを発見。死因は急性心筋梗塞でした。
バタバタと葬儀を終えて1週間が過ぎ、ひと段落していたところで明美さんから哲也さんの遺産の相続についての話がありました。
哲也さんが住んでいたこの自宅と土地は、哲也さんや明美さんの両親がもともと所有していたものなので自分が引き継ぎたいとのことです。さらに、哲也さんの預金や保険も自分が生活をサポートしていたからいまの財産を築くことができたもので、すべての相続を放棄してほしいと要求されました。
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