片親の不在が生む経済・教育の貧困
こうした片親(父親)の不在は、貧困などの経済的な問題、それによって起こる受けられる教育の質の低下や経験できることの質や豊かさなどとも関係していきます。離婚し、ひとりで子どもを育てている世帯の貧困率は48.1%と、かなりの高水準です。
なかでも厳しいのは母子世帯で、その年間総所得は306万円。これは「子どものいる世帯」の41%にとどまっています。(注6) 親の経済的貧困は、教育の貧困につながり、教育の貧困は、その子どもの職業選択や将来の生活に直結します。
日本はOECD(経済協力開発機構)諸国のなかでも教育費が高額です。それなのに教育への公費負担が少ない国です。少子化で在学層は減っているのに、国内総生産(GDP)に占める国の教育公費負担(初等教育から高等教育まで)はOECD平均4.9%より低い4.0%にすぎません。
ところが、公費負担と家計支出を合わせると1人当たりの年間教育支出は、1万1896ドルでOECD平均1万1231ドルを上回ります。(注7) 高額な教育費を捻出できない家庭の場合、子どもはおのずと高い教育を受けたり、さまざまなものを吸収していく機会を奪われてしまいます。
奨学金という方法もありますが、日本の奨学金のほとんどは貸与型で、返済義務があります。高額の借金を背負って生きていかなければならないのです。こうした状況は、職業選択の足かせになったり、配偶者選択や結婚、出産、子育てにも影響を与えていくでしょう。
経済的影響は、受けられる教育だけにとどまりません。お金があれば、たとえば親が忙しいときにシッターを雇ったり、子どもとの時間を確保するために家事代行サービスを利用したりもできます。
トラブルがあったときには、専門家を探したり、頼ったり、お金の力を借りて解決することもできます。お金があれば子どもが幸せになるわけではありません。でも、お金によってできることがたくさんあるのも事実です。
ひとり親の経済的貧困を解消するものの一つに養育費があります。2011年に民法766条が改正され、若干ながら養育費の支払い状況は改善されました。しかし、いまだ母子世帯24.3%、父子世帯3.2%と、全体の4分の1にも届いていません。(注8)
余談になりますが、養育費に関する大学生を対象とした調査によると、養育費を受け取っている人たちは、受け取っていない人たちに比べ、「結婚に関する興味」や「子供がもたらす豊かさ」が高い傾向にあります。(注4)
養育費の支払いは、子どもを経済的に豊かにするだけでなく、「別居親も自分のことを考えてくれている、愛してくれている」という思いを子どもに持ってもらうことにつながり、「片親の不在」というマイナス要因の払拭にも役立ちます。
注1:『別れてもふたりで育てる 子どもを犠牲にしない離婚と養育の方法』(ジョアン・ペドロ―キャロル著/丸井妙子訳:明石書店)
注2:『セカンドチャンス 離婚後の人生』(ジュディス・S・ウォーラースタイン、サンドラ・ブレイクスリー著/高橋早苗訳:草思社)
注3:『それでも僕らは生きていく―離婚・親の愛を失った25年間の軌跡』(ジュディス・S・ウォーラースタイン、サンドラ・ブレイクスリー、ジュリア・M・ルイス著/早野依子訳:PHP研究所)
注4:「父母の離婚後の子の養育の在り方に関する心理学及び社会学分野等の先行研究に関する調査報告書」(国立大学法人富山大学 令和3年11月)
注5:『離婚しても子どもを幸せにする方法』(イリサ・P・ベイネイデック:キャサリン・F・ブラウン著/高田裕子訳・日本評論社)
注6「ひとり親家庭の現状と支援施策について〜その1〜」(厚生労働省 子ども家庭局家庭福祉課 令和2年11月)
注7:2020年版『図表でみる教育』(OECD)
注8:「養育費・面会交流に関する関連調査に関して」(法制審議会家族法制部会参考資料 2021年7月)