姑と母子密着関係にある父親との危うい結婚
昨今、離婚をめぐってよく耳にする事象に「子どもの連れ去り」があります。片方の親が、もう片方の親の合意なく子どもを連れて、家を出ていくことです。被害に遭うのは、ほとんどが父親で、その後、子どもと会えなくなることが多くあります。
しかし、なかには真由美さん(50代)のように、母親が被害者となるケースもあります。「まさかお腹を痛めて産んだ我が子と会えなくなるなんて、考えたこともありませんでした」と言う真由美さんは、父親とその母(父方祖母)によって、子ども(当時8歳)と引き離されました。「夫婦関係をやり直したい」と言う父親の言葉を信じ、父親の実家のそばに新築の一戸建てを購入し、引っ越した直後の出来事でした。
当時、真由美さん夫婦の関係は冷え切っていました。父親は、女手一つで自分を育ててくれた父方祖母(姑)を大事にし、何もかも姑優先。姑も「私と息子(父親)はふたりでひとり」と公言してはばかりませんでした。
そんな姑と密着関係にある父親との危うい結婚。それが一気に悪化したのは、真由美さんが「出産後も仕事を続ける」と告げたときからでした。姑も父親も、「子どもができたら女性は仕事を辞め、家に入り、夫と子どもに尽くすべき」という考えでした。
それからというもの、父親は真由美さんが風邪で寝込んでいると「家事を怠っている」と責め、息子が保育園の登園をしぶると「本来は行く必要のない所に(真由美さんが仕事を続けているせいで)無理やり行かせている」と言いました。近所に住む姑は「嫁失格」「息子(父親)に負担をかけて、その仕事を邪魔している」などと罵りました。針のむしろのような日々に、心身ともに参ってしまった真由美さんはとうとう休職に追い込まれます。
父親による子どもの連れ去り
そんなある日、姑から父親に電話がかかってきました。電話を切ると、父親は唐突に「おまえのせいでお袋(姑)が参っている。距離を置いてほしい」と、真由美さんにしばらく実家に帰るよう迫りました。
訳がわからず、実家に戻ることに不安を感じた真由美さんでしたが「姑の体調が悪化して、もっと関係がこじれるのは困る」と思い、父親に従いました。子どもには学校があったため、一緒に連れて行くことは諦めました。
2週間後、父親に連れられて真由美さんの実家にきた子どもは、真由美さんの顔を見るなり「帰る、帰る」と泣き出し、自分の頭や腹を叩くなどの自傷行為を始めました。「(真由美さんの実家では)貧乏生活になるから嫌だ」と口走り、父親がいなくなると「パパに電話する」と父親への電話を繰り返しました。
ところが夜中12時を回ったころから態度がころっと代わり、「ママ、ママ」と甘えるいつもの子どもに戻って、翌朝、父親が迎えにきてもなかなか帰ろうとしませんでした。その後、二度と父親が子どもを連れてくることはありませんでした。
「おそらく、父親や姑は私や実家の悪口をいろいろ吹き込み、子どもが私を嫌うように仕向けていたんだと思います。それなのに、私と一晩過ごしただけで、子どもがまた私に懐いていたことに驚き、『会わせたらダメだ』と思ったのではないでしょうか」(真由美さん)
子どもを連れてこようとしない父親の態度に業を煮やした真由美さんが自宅に戻ると、そこはもぬけの殻。子どもは父親と一緒に、すぐそばにある姑の家に引っ越していました。それからというもの、授業参観に行くと、子どもは露骨に嫌な顔をし、真由美さんを教室から追い出そうとしました。
子どもが使う最寄り駅で待っていた真由美さんが声をかけると、子どもは血相を変えて逃げ出したこともあります。面会交流は「子どもが嫌がっているから」(父親)と一度も実現していません。