(※写真はイメージです/PIXTA)

収入が高く、貯蓄も十分。将来、十分な年金だってもらえる。そんないわゆる勝ち組であっても、老後に生活苦へ陥り、最悪、破綻を迎えるケースがあります。なぜなのでしょうか? 本記事では社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、Tさん夫婦の事例とともに、富裕層の老後破産リスクとその回避方法について解説します。

一代で起業した会社を成長させ、富裕層となった65歳社長

製造業の社長であるTさんは、会社の規模は小さいですが、一代で会社を立ち上げ、個人事業主から法人化し、従業員数を増やしながら経営を拡大してきました。

 

Tさんは、大学を卒業してから、製造業に就職、会社でスキルアップしながら、30代で独立開業から法人化、バブル景気の追い風もあり、事業を拡大し、50歳になるころには従業員50人を抱える社長となっていました。

 

Tさんの妻も一緒に会社経営に携わり、専務取締役として社長の右腕として経営を支えてきました。現在の役員報酬はTさんが月収100万円、妻は月収70万円、世帯年収2,000万円を超え、いわば勝ち組夫婦です。

 

夫婦お互いが60歳を超え、貯蓄も1億5,000万円となり、65歳の年金受給を機に、事業承継による世代交代を考えています。直近のねんきん定期便の見込額では、夫婦が65歳から受け取れる年金額は400万円を超え、月額は約34万円です。

 

※
[図表]ねんきん定期便によるAさん夫婦の老齢年金額の試算 ※老齢基礎年金は2023年度新規裁定者の満額。老齢厚生年金は差額加算を考慮せず。Tさんの平均標準報酬月額は62万円、480月で計算。妻の平均標準報酬月額は53万円、300月で計算。

 

会社立ち上げ時は苦労した時期もありましたが、会社経営が軌道に乗ったことで、富裕層と呼ばれる人の仲間入りとなったTさんでしたが、突如「多額債務者」となってしまいます。Tさんに一体なにがあったのでしょう……。

まさか旧知の仲の先輩が…

TさんとSさんは学生時代の後輩、先輩の間柄です。学生時代からなにかと親身になってくれたSさんは頼れる先輩で、気心しれた仲でもあり、お互いが結婚し家庭を持ってからも付き合いは続いていました。

 

Sさんは、職種は違うもののTさんよりも先に起業をしており、Tさんが独立する際も相談に乗ってもらうなど、経営者の先輩として尊敬の念を抱いていました。

 

久しぶりの連絡…Sさん「保証人になってくれないか」

2年前、久しぶりにSさんより連絡があり、珍しくSさんから相談があるとのこと。Sさんの会社の経営が悪化しているところに、追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染症の影響で経営がさらに悪化、経営改善と設備投資のため、融資を受けたいが、赤字が続いていることもあり、保証人が必要とのこと。Tさんに保証人になってくれないかとの相談でした。

 

普段、保証人として署名することはしないTさんでしたが、Sさんとの特別な信頼関係のもとに快諾し、署名しました。その後、コロナの影響もあり、Sさんとは会うこともなく、2年の月日が流れたある日、某金融機関より1本の連絡が入りました。

 

Sさんの会社は経営が悪化し倒産。Sさんは現在行方がわからず債務が滞っているため、保証人となっているTさんに返済を求める連絡でした。ビックリしたTさん、急ぎSさんに連絡するも繋がりません。

 

「まさかこんなことになるなんて……」

 

負債額は約2億円です。TさんはSさんに連絡するものの、連絡がとれず行方不明のままです。返済に迫られるTさんは愕然としました。「勝ち組」「富裕層」と誰からも羨ましがられていたTさん夫婦ですが、貯蓄の1億5,000万円を全額払っても5,000万円の負債が残り、月額34万円の年金を受け取っても赤字となり、このままでは老後破産の可能性も。

 

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