(※写真はイメージです/PIXTA)

収入が高く、貯蓄も十分。将来、十分な年金だってもらえる。そんないわゆる勝ち組であっても、老後に生活苦へ陥り、最悪、破綻を迎えるケースがあります。なぜなのでしょうか? 本記事では社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、Tさん夫婦の事例とともに、富裕層の老後破産リスクとその回避方法について解説します。

Tさん夫婦は老後破産を回避できるのか?

YさんはSさんを探し続けていましたが、そのあいだの返済は待ってくれるものではないため、多額債務をどうするのか決断しなければなりません。Tさん夫婦の答えは決まっているようです。貯蓄してきた1億5,000万円を返済にあて、5,000万円は月々に返済するというものです。

 

Tさんの自宅は都心まで1時間の距離にあり、閑静な住宅地です。不動産を手放せばある程度完済も可能かもしれませんが、長年住み慣れ、さらに終の住処としている自宅を手放すことはできず、別の方法を考えてみました。

 

1.現役を続投した場合

⇒事業承継を先延ばしし、現役続行を決め、妻と全力で自身の会社経営に没頭する

 

役員報酬はTさん月額100万円、妻は70万円を継続、幸いなことにTさん自身は住宅ローン等、大きなローンはないため、日常生活費を30万円以内に抑え、毎月90万円、年1,000万円を返済にあてることにします。

 

65歳から70歳まで現役続行し、日常生活費を節約することで、5年で5,000万円を完済することができます。ただし、貯蓄はゼロとなり、先行きの不安が残ります。

 

2.現役を引退した場合

⇒会長として報酬を月20万円に下げ、年金を月34万円受け取る

 

年金は日常生活費にあて、報酬分を全額返済にまわしたとしても、完済までに20年以上かかるため、Tさん自身が亡くなるまでに完済できるかわかりません。老後破産する可能性が高いため、現役を引退するならば、自宅の売却の検討が必要となります。

 

老後破産回避の活路

Tさん夫婦が健康で70歳まで現役同様に働き続けることができるならば、多額の債務を完済することも可能ですが、貯蓄がゼロとなります。しかしながら、Tさん夫婦は持ち前の明るさと前向きな姿勢が、老後破産の回避も夢ではないでしょう。

 

前段の1を選択……現役を続投し、年金は70歳まで繰下げすると、在職老齢年金制度のため、老齢厚生年金は差額加算分のみ少し増額する程度にとどまりますが、老齢基礎年金は5年(60月)で42%増額できます(79万5,000円×0.42=33万3,900円増額)。

 

夫婦ともに65歳から70歳まで社会保険に加入し、70歳から年金を受け取り始めた場合、老齢厚生年金が約21万円増額、老齢基礎年金は約33万円増額し、夫婦あわせて年額約100万円増額することが可能となります。

 

Tさん夫婦の貯蓄はゼロになりますが、70歳から終身で受け取れる年金は夫婦あわせて500万円となり、月額約42万円になれば、老後破産を回避し、多少の不安は払拭できるのではないでしょうか。

 

 

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表

 

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