労働者にとっての「最強の交渉手段」
労働運動は、20世紀の社会契約の構築に不可欠な役割を果たした。最低賃金の設定から、失業保険、週40時間労働制、病気休暇、差別禁止法、児童労働法、年金制度、週末の休みに至るまで、労働運動が勝ちとったものは数えきれない。
これからの21世紀に向けて社会契約を書きかえるにあたり、今回も労働運動に重要な役割を担ってほしい。
アメリカ、イギリス、地中海沿岸のヨーロッパ諸国では、労働組合の大部分が全盛期を過ぎている。組織は大きくなりすぎ、組合員数は少なくなりすぎた。
2020年代以降に労働運動が成功していくには機敏でなければならない。分散した労働力を動員し、最も必要とされる場所に迅速に資源を移す能力が求められる。テクノロジーはこのふたつを可能にするが、とはいえ魔法の弾丸ではない。
ソーシャルメディアや組織化アプリは、ライドシェアドライバーズ・ユナイテッド(RDU)のような草の根団体の結成を可能にするかもしれないが、実効性のある労働運動の構築には資金と人手、そして何よりもモチベーションが必要だ。
ゼロ年代にテクノロジーを介して組織化を試みた草の根団体の多くはすでに霧散してしまったとリチャード・フリーマンは言う。「テクノロジーをもっと活用できるはずと期待したものだったが、いまのところ充分に開花したとはいえない」。
労働組合の組織構造は変わらなければならないが、それでも彼らにとって最強の交渉手段はやはり集団行動だろう。
ジョージタウン大学のジョセフ・マッカ―ティン教授は、「労働者は団結して行動しなければならないし、協力しあわなければならないし、力を充分に発揮できるだけの規模をもたなければならない」と述べている。1980年代以降、ストライキはあまり好まれなくなったが、いままた復活しつつある。
1930年代にGMの座りこみストライキが労働者を組織化する大きな波を起こしたように、今日でも何かひとつの団体行動が大波のきっかけになるかもしれない、とリチャード・フリーマンは言う。
経済が低迷しているときほど労働者は動員されやすく、「歴史を振りかえれば、欧米の多くの労働組合は経済の低迷期に力をつけてきた。労働者が社会の仕組みへの信頼を失っていたときに」とつけくわえた。