権威主義の中国は、なぜグローバル経済に適応できたのか?…政治的服従と引き換えに「中国国民が得たもの」【米専門家が解説】

権威主義の中国は、なぜグローバル経済に適応できたのか?…政治的服従と引き換えに「中国国民が得たもの」【米専門家が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

企業・政府・市民。かつてその均衡は保たれていたが、近年、企業は株価を上げることに苦心し、損失を「税金による救済」で賄うようになった。なぜこのような資本主義の負の側面が露呈したのか? 新たな経済を構想することは可能なのか。情報政策の専門家、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー『未来化する社会』の著者であり、イノベーションに関する世界的な専門家のひとりであるアレック・ロス氏の著書『99パーセントのための社会契約』(早川書房)から一部抜粋転載して紹介します。

管理型モデルを柱にグローバル経済に適応する国、中国

はじめに、管理型モデルのもつ抗しがたい魅力と、そのモデルの最も強力な推進者を取りあげよう。中国だ。

 

欧米に住む多くの人にとって、管理型モデルは過ぎ去った時代への回帰のように見える……。国家がすべて考え、決定し、実行する社会契約の時代。一般市民は政府や企業のルールや責任についてほとんど発言できない。従わない人は、その報いを受ける。

 

歴史には、王や女王、皇帝、スルタン、宗教指導者、有力政党の実力者などが、世論や民主的な手続きを無視して社会全体に自分の意向を押しつけてきた例がたくさんある。

 

権威主義は最も古い統治形態であり、長久のなかでさまざまに姿を変えてきた。そのなかで中国ほど、このモデルを21世紀に合わせて効果的に適応させた国はない。

 

これには中国の歴史も関係している。中国では3500年以上にわたって強力な中央政府が国民を統治してきた。

 

古代から20世紀初頭まで557人の皇帝に率いられ、数十年間は内紛、内戦に陥り、国土の一部を外国に支配されたのち、1949年に中国共産党の旗のもとで再興された。中国に民主化の歴史は見当たらず、14億の人々は、国の強制する社会契約に従うしかない。

 

この40年間の中国は、経済の自由化と政治的統制の融合として定義される。

 

中国が権威主義的資本主義へ移行しはじめたのは、毛沢東主席の過酷な支配から抜けだした直後の1978年だった。飢饉と政治的粛清で荒廃した中国は、生活の質に関するほぼすべての統計で先進国から大きく遅れをとっていた。

 

当時の経済規模はオランダより小さく、9億5000万の人口を抱え、その9割近くが極度の貧困にあえいでいた。毛沢東の死後、最高実力者となった鄧小平は、中国を後進国から脱却させるべく、徐々に経済の開放を進めていった。

 

国は農業部門への統制を緩め、村に住む農民が土地や設備を借りて生産し、余剰分を自由市場で販売できるようにした。かつては共産党が禁止していた民間企業も各地に誕生しはじめる。

 

沿岸部の都市には政府が「経済特区」を設け、税金を優遇したり、ほかの地域では課す制約を免除したりするようになった。このような自由市場の拠点には外国人投資家が群がり、中国の輸出は急増し、経済が発展しはじめた。

 

中国はソ連より早く、10年早く、経済の共産主義に背を向け、「共産主義者」ということばも本来のイデオロギー的な意味をもたなくなった。モスクワの経済改革がソ連邦の崩壊を招いたのに対し、北京は共産党の政治的支配力を弱めることなく中国経済の開放に成功した。

 

この40年間、中国がどのように発展してきたかはいまや周知のことだが、それでも驚異的だったことに変わりはない。この40年間、年平均9.5%の成長率を維持し、世界銀行から「主要経済国のなかで史上最速の持続的拡大」と評された。

 

国内総生産(GDP)は36倍に増え、8億人以上が貧困から脱却した。これは人類史上最大の貧困撲滅であり、経済の自由主義が社会主義を上回っていることを最もよく示す例ではないだろうか。中国は現在、アメリカに次ぐ世界第2位の堂々たる経済大国だ。

 

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99パーセントのための社会契約

99パーセントのための社会契約

アレック・ロス

早川書房

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