日本人に拡大する「貧富の差」
生徒:先生、日本人の平均的な貯金額ってどれくらいなのでしょうか?
先生:金融広報中央委員会が発表している「家計の金融行動に関する世論調査」に、最新の日本人の貯金額が紹介されているよ。ここでの貯蓄額というのは、預貯金、生命保険、有価証券といった金融資産の合計なんだ。この調査によれば、単身世帯が保有する金融資産の平均値は870万円、2人以上世帯が1,290万円だったようだね。
生徒:そんなに持っているんですか!?
先生:これは、ものすごいお金持ちが平均値を上に押し上げていると思うよ。平均値ではなく中央値、つまり下から数えてちょうど真ん中にくる数字を見ると、単身世帯の中央値は100万円、2人以上世帯の中央値は400万円となっているんだ。ほとんどの人は、こちら中央値に近い金額だろうね。
生徒:貧富の差が大きいということですね。
先生:実はそうなんだ。お金がない人の数を見ていくと、単身世帯の34%、2人以上世帯の23%は「貯金ゼロ」となっているんだ。つまり、日本人の貧富の差はかなり深刻なレベルにあるということなんだよね。お金をたくさん持っている少数の人が平均値を押し上げている一方で、お金を持っていない多数の人が中央値を下げているということだね。
生徒:私は「お金がないほう」に入りそうです!
先生:さらに詳しくみていくと、単身者世帯では、金融資産100万円未満の人が48%となっている一方で、1,000万円以上の人は21%もいるんだ。一方、2人以上世帯では、100万円未満の人が32%となっている一方で、1,000万円以上の人も32%となっているんだ。
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貧富の差をもたらす「資産所得」とは?
生徒:それにしても、なぜこんなに差が開いてしまったのでしょうか。
先生:戦後の日本が「1億総中流」と言われるほどの平等な社会になったわけだけれど、戦後から80年近く経った2023年の現在、資産所得の差が貧富の差をもたらしたということだろうね。
生徒:なぜ資産所得が貧富の差をもたらすのですか?
先生:資産所得の差が貧富の差をもたらすのは、親から相続した財産があれば、何もしなくても、放っておいてもお金が増えるけれど、親から何も相続しなければ、一生懸命働いてお金を稼がないと、お金は増えないからだね。
生徒:相続財産ですか?
先生:そうだね。例えば、相続財産が1億円のAさんと、相続財産がゼロのBさんを比べてみようか。Aさんの子どもは、1億円を資産運用すれば、毎年5%くらいの利回りで増えていくだろうね。72の法則に従えば、14年くらいで2億円になるだろう。
生徒:72の法則って何ですか?
先生:72の法則というのは、お金が2倍になる期間が簡単にわかる便利な計算式のことだね。72÷利回りで割り算すると、お金が2倍になる年数がわかるんだ。
生徒:資産運用すれば14年で2倍になるんですね!
先生:これに対して、Bさんの子どもには、資産運用する元本がゼロだから、何年たってもお金は増えないよね。資産所得の大きさが全然違うということなんだよ。子どもは自分で働いて稼いだお金は、ほとんど生活費で消えてしまうだろう。そうすると、金融資産のほとんどは相続財産とそれが生み出す資産所得だと考えた方がいい。親からの相続財産があるか無いかで、子ども世代の貧富の差が発生して、時間が経てば経つほど、その差がどんどんと大きくなっていくんだよ。
生徒:会社員だと60歳で定年退職すると退職金をもらいますよね。60歳代ではどうなっているでしょうか。
先生:40歳代以降になると、退職金をもらったことで金融資産2,000万円以上が一気に増えるんだ。親からの相続財産を取得したこともあるだろうね。その一方で、金融資産ゼロの人が相変わらず多いんだよ。
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生徒:それでは、このような貧富の差がある日本で、私たちはどのように生活すればよいのでしょうか。
先生:政府が「貯蓄から投資」と言っているように、これがすべての基本なんだ。ただし、投資には元本が必要。元本がなければ、利息や配当、分配金、売却益といった資産所得は生まれないんだよ。
生徒:私には元本がありません。どうすればよいでしょうか。
先生:元本をどうやって準備するか、これが最大の問題なんだけど、最初に考えることは親の財産。親から相続できる財産がどれだけあるかということだね。金融資産でなく、不動産でもいい。不動産も売却すればお金になるからね。
生徒:うちの両親は貧乏なのでお金は持っていないと思います。実家も地方にあるボロ屋敷です。親の財産を元本にすることは難しそうです。
先生:そうすると、次に考えるのは元本を増やすための投資だね。
生徒:支出を減らして、お金をNISAで投資すればよいのでしょうか。
先生:いや、違うんだ。若い頃にNISAで投資なんてする必要はないよ。
生徒:でも、金融資産で運用すると、利回り5%くらいで増えていくんですよね。いま若い人の間でNISA口座を開設する人が増えていると聞きました。
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利回り5%の金融資産より、さらに上を行く商品とは?
先生:いや、もっと利回りの高い商品があるんだよ。
生徒:えっ、それって…FXや仮想通貨、ファンド・ラップやラップ口座ですか!?
先生:いや、違うよ。君自身だよ。自分に対する投資だよ。
生徒:私が商品なんですか?
先生:投資するときの元本は、自分が稼いだお金だよね。君が毎月1万円しか投資できなければ、いくら利回り5%で運用したとしても、大きく増えない。いまの稼ぎを2倍にして、毎月10万円とか20万円投資できるようになることを考えるんだよ。そのために、自分が稼ぐ力を高めるための勉強をするんだよ。NISAに毎月1万円投資するくらいならば、毎月1万円かけて本を買って読んだり、資格試験の勉強をしたりするほうがいい。そうすると、NISA口座に毎月10万円ずつ投資できるくらい、稼ぎが増えるはずだ。
生徒:勉強すると収入が上がりますか?
先生:2022年の経済財政白書によれば、社会人になってから勉強を続けた人の3年後の年収は、5%から10%くらい増加するという統計データがあるんだよ。これを「リスキリング」というんだ。
生徒:働きながら勉強はキツいですね!
先生:こんなケースを考えようか。極端だけれど、25歳で就職して65歳まで毎月1万円の投資を続ける人がいたとしよう。利回り5%とすれば、65歳で1,500万円のお金を受け取ることができる。退職金も受け取れば3,000万円くらいになるかな。これだけでも老後資金は十分だね。
生徒:老後資金2,000万円問題はクリアしていますね。
先生:それに対して、25歳で就職して、35歳までの10年間は毎月1万円かけて勉強を続ける人がいたとしよう。おそらく、年収は2割くらい増えているはずだろうね。その後35歳から投資を初めて65歳まで毎月5万円の投資を続けるとすると、4,200万円になるんだよ。マイホームも購入できているだろうし、退職金も受け取れば、1億円近くの老後資金が準備できて、FIREを実現するのではないかな。勉強していなかった人の2倍以上のお金になるだろうね。
生徒:毎月5万円を30年間ですか?
先生:そうだね。これが新しいNISA制度が想定する資産運用なんだよ。毎月5万円の積立て投資を30年間続けると投資額の合計はNISAの積立て上限額1,800万円となるんだよ。
生徒:若いうちは毎月5万円の投資ができるようになることを目指さなければいけませんね。
先生:そうなんだ。いまの話は非常に単純化したものだけど、資産所得よりも利回りのよい商品は「自分自身」なんだ。自分というのは親からもらった貴重な相続財産だといってもいいだろうね。勉強を続ける人は、どんどん収入を増やして資産所得を稼ぎ出す一方で、勉強しない人は、何歳になっても投資の元本が作れず、資産所得は得られないということなんだよ。
生徒:30歳代や40歳代になって、勉強していないことに気づいた人は、どうすればよいのでしょうか。資産所得は得られないのでしょうか。
先生:いや、勉強を開始する年齢に手遅れということはないよ。40歳代になっても勉強を開始すればいい。AI活用などデジタル化など時代の変化に適応できるような勉強を行うことができれば、収入は一気に増える可能性があるだろうね。ChatGPTなどAIの進歩は驚異的だから、それまでの遅れを一気に挽回してくれるのではないかな。
生徒:それでも、親から相続財産をもらえる人がうらやましいです。
先生:事実として世の中は貧富の差が拡大しているし、今後もこの傾向は続くだろうね。この現実を嘆いてもどうにもならないから、私たちが行うべきことは、貧富の差が広がっているという現実を受け入れること。そして、仕事だけでなく、勉強を頑張るということだね。長時間働いていても、お金は増えない。それならば、働く時間を減らして勉強したほうがいい。一時的に収入は減るかもしれないけれど、稼ぐ力が向上すれば、長期的に収入は増えるはずだよ。
生徒:1億円FIREを目指すのであれば、節約ではなくリスキリングですね! 地道にコツコツと資格試験の勉強を続けていきます!
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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