ペアローンで購入した住居を売却したいが、一方が「拒絶」
相談者のナカサンさん(男性56歳・仮名)は、同じく50代の妻との別居を検討しています。
別居にあたり、ナカサンは住居を売却したい意向です。一方、妻は売ることに反対しています。
相談者が懸念しているのは、住居をペアローンで購入していることです。さすがに自分だけの意向で、売却で押し切るのは困難と認識しています。
相談者としては、
・住居をなんとか現金化する
・相談者の住宅ローンを妻に引き継いでもらう
のどちらかで話を進めたいと考えています。
相談者が心配しているのは、妻が売却および住宅ローン引き継ぎも拒否し、住宅ローン完済後に相談者が居住していないにもかかわらず実質、妻の財産となることです。
もしも売却せずに財産分与とする場合、
住居時価:5,000万円
妻の住宅ローン:2,500万円
と、上記の分け方になるので、住居時価と妻の住宅ローンの差額2,500万円の半分となる1,250万円を相談者がもらえると認識しています。
離婚および財産分与について、万一、妻から同意が得られない場合、もしくは相談者の提案に不服を示した場合は、最終的に裁判所に提訴して判決をもらう形になるかもしれないと覚悟はしています。
そのうえで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。
(1)ペアローンで購入した物件で一方の同意が得られない場合、法的にどのような形で話を進めるのが望ましいのか。
(2)妻が売却も住宅ローン引き継ぎも拒否した場合、住宅ローン完済後の所有権はどうなるのか。
離婚時の財産分与はどうなるのか…
1.ペアローンとは
ペアローンとは、一般的に、同一物件に対して複数の債務者がそれぞれ個別に住宅ローン契約を行い、互いに担保提供者兼連帯保証人になる借り入れ方法です。
本件では、ご相談者様は、夫婦共有名義の自宅不動産について、夫婦それぞれが個別に住宅ローンを借り入れ、それぞれ共有持分に抵当権を設定し、さらに互いに連帯保証人にもなっている状態だと思われます。
現在別居検討中とのことですが、別居して自宅を離れたとしても自身の住宅ローンや連帯保証債務がなくなるわけではありません。
そこで、ご相談者様としては、自身の住宅ローンや連帯保証債務の負担を免れるため、自宅の任意売却を希望されているのでしょう。
2.配偶者の同意が得られない場合は
しかしながら、ペアローン付き自宅の任意売却には、配偶者の同意が不可欠となります(なお、抵当権設定者である金融機関の同意も必要です)。
配偶者の同意が得られない場合には、離婚時の財産分与によるしかありません。
3.住宅ローン付き不動産の財産分与
(1)離婚時の財産分与とは
財産分与は、婚姻中に夫婦で協力して形成した財産(夫婦共有財産)を、離婚時に原則として2分の1の割合で分け合う制度です。
住宅ローン付き不動産の場合には、時価額から住宅ローンの残額を控除した残余額を財産分与対象と考え、当該残余額を2分の1の割合で分け合うことになります。
(2)本件では不動産は財産分与の対象外
本件では財産分与をしても売却や住宅ローンの引継ぎは難しいです。
本件では、不動産の時価が5,000万円、配偶者の住宅ローン残高が2,500万円とのことですので、おそらくご相談者様の住宅ローン残高も2,500万円程あるものと思われます。
そうすると、時価5,000万円-住宅ローン残高の合計5,000万円=0円であり、当該自宅不動産は、財産分与の対象となる残余額が全く無いか、仮にあったとしても僅かということになってしまいます。
したがって、仮に離婚時の財産分与を行うとしても、当該不動産については、財産分与の対象外となる可能性があります。
仮に財産分与の対象になるとしても、配偶者が自宅に住み続けることを希望した場合には、配偶者から僅かな代償金の支払いが得られるだけで、売却や住宅ローンの引継ぎまでは難しいでしょう。
なお、住宅ローンの引継ぎには、抵当権設定者(金融機関)の同意が必要であり、金融機関がそもそも住宅ローンの引継ぎに同意することはほとんどありません。
以上の通り、本件では、仮に離婚して財産分与の手続きをしても、不動産の任意売却や住宅ローン債務の引継ぎは難しいと考えられます。