いま、企業の倒産が「増加しはじめている」背景
帝国データバンクによると、倒産が増加しはじめているようです※。新型コロナが流行し、人々がステイホームしていたときには、飲食店や旅館は大変な苦境に立たされていましたが、そのときに歯を食いしばって生き抜いた企業も、3年あまりでついに力尽きた、という企業も少なくありません。政府によるさまざまな支援策が新型コロナの収束とともに終了し、そこに燃料費等の高騰が重なり、いよいよ力尽きたのでしょう。
※ https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/2305.html
倒産した企業の経営者はさぞ無念だと思います。商売には栄枯盛衰がつきものとはいえ、(よほどの放漫経営をしていた人を除き)同情を禁じ得ません。
しかし、経済を見るときには、温かい心だけではなく、冷たい頭脳も必要です。そして、冷たい頭脳で考えると、この時期の倒産の増加は悪くないとも思われるのです。それは、いまが「労働力不足の時期」だからです。
企業経営者にとって倒産は悲劇そのものでしょうが、従業員にとっては、労働力不足の時期に勤務先が倒産しても、すぐに次の仕事が見つかるでしょうから、それほど困ったことではないでしょう。新型コロナが猛威を奮っているときに勤務先が倒産したら、自分も失業するところだったでしょうから、いままで勤務先が踏みとどまってくれてありがたかった、ということですね。
燃料費等の高騰は、アラブの王様に増税されたようなものですから、日本経済にとっていいことであるはずはありませんが、不況で失業者が大勢いるときに倒産が増加して失業者が一層増えた可能性もあったことを考えると、燃料費等の高騰がこの時期だったのは不幸中の幸いだったといえるのかもしれません。
労働力不足時の倒産で、優良企業へ労働力が移動する
労働力不足ということは、どこかの企業がガマンをしなければならない、ということです。そうであれば、儲かっている企業よりも儲かっていない企業にガマンしてもらう方が日本経済のためですね。
倒産すると、企業が持っている資産が二束三文で買い叩かれたり、企業内に蓄えられてきたノウハウ等が散逸したりしますから、大変もったいないことではあるのですが、儲かっていない企業が抱え込んでいた労働力が解放され、儲ける力のある効率的な企業に労働者が移動するのであれば、日本経済全体としてはむしろ効率化すると考えることもできます。
今後は、労働力不足による倒産が増加していくかもしれませんが、それこそ賃金の上げられない非効率企業から賃金の上げられる効率的企業への労働力の移動を実現するものですから、日本経済にとっては望ましいといえそうです。
ゼロゼロ融資が「効果の高い施策」だったといえる理由
新型コロナ対応として政府は「ゼロゼロ融資(無担保ゼロ金利の融資)」を大規模に実施しました。それによって延命した企業が多数ありましたが、それが返済期限を迎えるとともに返済困難で倒産する企業が増え始めているようですし、今後も増えていくでしょう。
そうなると「政府はゾンビ企業を延命するために国民の血税を使い、回収不能となった分が国民の負担となった」といった批判が聞こえてきそうですが、筆者はゼロゼロ融資を高く評価しています。
ゼロゼロ融資がなければ、ゾンビ企業はもちろん、優良企業のなかにも倒産した飲食店等が多数発生したでしょう。そうなれば、不況の最中に倒産が著増して失業が増え、深刻な不況に陥っていたでしょう。それを防いだのがゼロゼロ融資だったわけです。
不況対策としては公共投資や減税が普通でしょうが、新型コロナで人々がステイホームしている時に減税をしても消費は増えないでしょうし、公共投資も建設労働者が集まらなければ実行できないので、当時の景気対策としては倒産を防いで雇用を守ることしかできなかったのです。
ゾンビ企業であっても、不況時には雇用を守る重要な貢献をしているわけですから、ゾンビ起業の延命は必要なことなのです。景気が回復して労働力不足になったときにゾンビ企業が延命していれば、効率的な企業が労働力を確保できず問題ですが、幸いなことに、ゼロゼロ融資の期限が来たのが労働力不足の時期だったので、そうした事態を免れることができた、ということでしょう。
もうひとつ、ゾンビ企業と優良企業を見分ける余裕がなかった、ということにも留意する必要がありそうです。短時間で多数の企業に緊急融資をするわけですから、判断ミスは当然起こります。そのときに、ゾンビ起業も優良企業も延命して、あとからゾンビ企業が倒産するのであれば被害は限定的ですが、優良企業をゾンビ企業だと思って融資を断ってしまったら、取り返しがつかない損失が発生するかもしれません。そうしたリスクを避けるためには、審査を甘くしてすべての企業を救うという判断が妥当であった、ということもいえそうです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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