政府、子育て支援を充実する方針
政府は子育て支援を充実する方針を打ち出しました。児童手当の大幅拡充等々で、年間3.5兆円ほどの支出を行なうようです。
子どもは国の宝であり、子育てを支援することは国の最重要責務のひとつですから、大いに歓迎です。子育て世帯は生活に余裕が乏しいので、受け取ったお金はすぐに使うでしょうから、景気への影響という点でも望ましいといえるでしょう。
「シルバー民主主義」という言葉があります。高齢者は人数が多く、投票率も高い一方で、若者は人数が少なく投票率も低いので、政治家は高齢者を優遇する政策を採用しがちだ、ということなのですが、今回はそうではなく、若者を支援する政策なので、その意味でも素晴らしいと思います。
強いて難をいえば、財源については選挙後に発表することを考えているように見えることです。そこはしっかり選挙前に財源を明らかにして国民の信を問うてほしいところですね。
少子化対策なら、対象を「新生児」に絞るべき?
もうひとつ、「少子化対策」という名称に問題があります。すでに生まれている子に関して児童手当を増額しても、新しく生まれてくる子どもの数はほとんど増えないからです。第一子の子育て費用が減れば第二子を産むインセンティブになる、ということはありそうですが、それならばその分を第二子に集中的に支払った方が効果は大きいでしょう。
若い男女に子どもを産んでもらえるようにインセンティブを与えることが真の少子化対策ですから、「今後生まれてくる子どもたちに手厚い支援をすると約束する」というのが少子化対策としての子育て支援です。正確にいえば、法律施行後「10ヵ月と10日」を経てから生まれてくる子どもが対象なのでしょう。
そうであれば、財源の議論ははるかに楽になります。18年かけて少しずつ歳出が増えていくだけですから、税の自然増収で賄えるかもしれません。
ここから先は、政治が優先順位を考える必要があるでしょう。少子化対策が重要なのか、「子どもは国の宝だから皆で育てる」ということが重要なのか。どちらも重要ですが、限られた財源をどちらに優先的に振り向けるべきか、あるいはシルバー民主主義と更に闘ってさらなる財源を確保するのか。国民的な議論を期待したいところです。
政策変更の可能性は否定できないが…
すでに生まれている子への支援をどうするか、という話を離れて、少子化対策に焦点を絞りましょう。その場合、本来必要なのは、約束した支援は、18年間は撤回しない、ということです。
「財政が苦しくなったから、育児手当を減額する」といった政策変更がなされる可能性があると、子どもを産もうという若者が将来の負担増を懸念して出産を諦めてしまうかもしれないからです。
もっとも、日本は民主主義ですから途中で政権が交代して政策が変更される可能性は否定できません。そうであれば、18年分の児童手当を出産時に一時払いしてしまう、というのも選択肢でしょう。
その場合の問題点は、「法案成立の10ヵ月10日後に生まれた子は何百万円ももらえるのに、その前日に生まれた子は何ももらえない」という格差が、だれの目にも明らかになることです。
経済学的には出産のインセンティブを与えるという意味を考えれば正しいのでしょうが、政治的にはそれでは持たないでしょう。やはり、毎月の児童手当を増額するしかなさそうです。それでも人々が出産のインセンティブを持ってくれると期待することにしましょう。
「少子化は国難」、さらに思い切った政策を期待
筆者としては、子育て支援も重要だと考えますが、少子化は国難なので、なにより少子化対策は思い切って充実させていただきたいと考えています。
たとえば「非正規労働者同士が結婚しても、子どもを2人産めば生活できる」くらいの児童手当を支払うことで、「金がないから結婚や出産を諦めている」という人々に出産してもらえれば、と思います。保育園が足りないなら増設すればいいですし、保育士が足りないなら保育士の給料を引き上げて他産業から労働者を引き抜いてくればよいのです。
筆者は高齢者ですし子育ても終えています。したがって、シルバー民主主義を応援したい気持ちもありますが、天国から日本が滅びるのを眺めたくない、という気持ちが優先しているので、少子化対策への予算振り向けを支持したいと考えています。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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