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投資初心者は「株価は予想できる」と考えがちだが…
投資初心者の人と話していると「そろそろ株価がピークだろうから、売ろうと思います」「さすがに下がりすぎだから上がるでしょう。買おうと思います」といった発言があり、心配になることがあります。株価の短期的な予想は、非常にむずかしいものだからです。
むずかしい理由のひとつは、上がると思って買っているプロと、下がると思って売っているプロの注文が同数だから〈いまの株価〉が成立している」ということです。プロたちの見解が分かれているときに初心者が予想するのは困難でしょう。
もうひとつの理由は「みんなが〈上がる〉と思うことでみんなが買い注文を出すから、実際に株価が上がる」からです。明日の株価が上がると予想することは、「明日はみんなが上がると思うようになる」ということを予想するのと同じなのです。
経済学者のケインズが株価を「美人投票」にたとえたワケ
経済学者のケインズは、株価を「美人投票」にたとえました。当時の美人投票はいまとルールが異なり、「優勝した候補者に投票した審査員も景品がもらえる」というものでした。筆者が当時の審査員だったらどうするか、考えてみましょう。
候補1が登場したとき、筆者は「美人だ」と思いましたが、会場は静かでした。候補2が登場したとき、筆者は「美人ではない」と思いましたが、周囲の審査員が拍手喝采していました。その場合、候補2に投票したほうが、景品がもらえる確率が高そうなので、筆者は候補2に入れるでしょう。
そうなると、「だれが美人であるか」より「ほかの審査員がだれに投票するか」が重要になります。審査員は候補者を見るのをやめて、ほかの審査員がなにを考えているのか、会場内にどんな噂が流れているのかを探ろうとするでしょう。
そんなとき、会場内で「候補3が審査員に賄賂を配っているから、候補3が勝ちそうだ」という噂が流れたとします。筆者が考えるのは「候補3に投票すると賞品がもらえそうだ」です。筆者が次に考えるのは「どうして自分には賄賂をくれないのだろう」ですが（笑）。
多くの審査員が同じことを考えて候補3に投票すれば、候補3が勝つでしょう。これは、「あの株が上がりそうだ」という噂が流れるとみんなが買うから実際に上がり、噂を信じて買った人が儲かる、という株式市場と似ている…というわけですね。
「噂が真実かどうか」は関係ない
実は、噂が誤りで、候補3は賄賂を配っていなかったとします。候補3の親友である審査員はどうするでしょうか。「噂は誤りだ。私は候補3には投票しない」と考えるようでは、賞品にありつけません。「みんなが誤った噂を信じて候補3に投票するだろう。それなら自分も候補3に投票しよう」と考えたほうが得なのです。
つまり、真実を知ることよりも、周囲の噂に耳を傾けるほうが儲かるのです。ケインズがいいたかったことは、そういうことなのです。
もっとも、これは短期投資の話で、長期投資で儲けたいと思えば、周囲の噂に耳を貸さずに真実を追求することです。人の噂も75日ですから。
金融政策の株価への影響も「美人投票」
金融政策の変更は、株価に大きな影響を与えます。それは、投資家たちが「金融緩和は株高要因、金融引き締めは株安要因」と信じているからです。みんながそう思っていると、金融緩和で株が上がり、みんなの信念が一層強化される、ということが繰り返されているわけです。
黒田氏が日銀総裁に就任したとき、「大胆な金融緩和をする」と宣言しました。ゼロ金利下の金融効果には効果がないことを銀行員である筆者は知っていました（後述）が、ほかの投資家は知らなかったのでしょう。株価は上がりはじめました。筆者はどうしたでしょう。
「銀行員だった自分だけが真実を知っている」という自己満足に浸って株を買わないという選択肢もありましたが、筆者は「みんなが間違えているのだから、自分も買おう」と思って買いました。
結果として利益が出たので、「黒田総裁、ありがとう」といいながら何度も乾杯しましたが、今から思えば間違いでした。黒田総裁が緩和しても、筆者がケインズの言葉を知らなければ儲からなかったはずですから、筆者はケインズに感謝すべきだったのです。
黒田緩和で、資金が世の中に出回らなかった理由
銀行が国債を持っているのは、借り手がいないからです。現金を金庫に積み上げておくより場所をとらないから、仕方なくゼロ金利の国債を持っているのです。そんなときに日銀が銀行の国債を購入しても、銀行は国債売却代金を日銀に預金するしかありません。
そうなると、昨日までは「銀行が政府に金を貸していた」のが、今日は「銀行が日銀に預金し、日銀が政府に金を貸している」わけで、なにも変わっていません。世の中に金が出回っていないのだから、なにも起きないはずなのです。
結果としては、美人投票によって株とドルが値上がりし、景気が回復しましたが、これは本来効果が無いはずの政策で景気を回復させたということになります。筆者はこれを「偽薬効果」だと考えていて、黒田総裁は「患者に小麦粉を飲ませて病気を治癒させた名医のようなものだ」と高く評価しているわけです。
本稿は以上ですが、投資判断等は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があります。
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塚崎 公義
経済評論家
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