Aさんと母がすべき「3つ」の相続対策
母の年齢である68歳女性の平均余命は、約22年※です。母の今後の生活は、駐車場収入と父の遺族厚生年金、そして自身の老齢基礎年金や個人年金保険がありますし、貯蓄を取崩すことになっても十分賄えるでしょう。
※ 厚生労働省「令和3年簡易生命表」
しかし、万が一母が亡くなったときのことを考えると、いったん母に相続された実家と駐車場と土地の相続税負担がAさんにかかることになります。
そこで、まずは母からAさんへ、相続の負担を減らす対策を考えておくことが大切です。
Aさんからお話を伺ったあと、Aさんと母、税理士のBさん、FPである筆者はさまざまな観点から話し合い、Aさんは生涯自宅マンションに住み、転職をしないということを前提に次のような3つの相続対策を行うことにしました。
1. 母からAさんに、毎年110万円ずつ暦年贈与する(20年間:2,200万円を想定)
2. 母が父から相続した「古美術品」は売却して現金化する。一部は地元の美術館や公民館、学校などに寄贈する
3. Aさんが相続した築古アパートについては、解体して更地で売却する
1点目については、Aさんも母の万が一に備え資産形成を行うことに。2点目の古美術品については、母子とも関心があまりないため売却をおすすめし、2人とも同意してくださいました。また、すでに一部の作品については、母が寄贈先を決めてあるそうです。
アパートに関しては、やはりいまの立地では長期的な収益は見込めません。ただし、建売分譲住宅などでは人気のエリアなので、現在の入居者に対し配慮をしながら、売買専門の不動産業者と計画的に売却の準備をすることになりました。
Aさんは、「アパートの土地を売却すれば、その資金で自宅マンションの住宅ローンを完済できる。そのマンションは賃貸として収入を得ながら、おれたちは実家に移って、年老いた母親と一緒に住むことも一案かもしれない」と話してくださいました。通勤に時間はかかるものの、金銭面でも母の今後を考えても安心です。
Aさんの母もこれを聞き、「父が亡くなって、ひとり暮らしがこんなに寂しいとは思ってもいませんでした。Aの奥さんにも心配をかけてしまって申し訳ない……。でも、もし一緒に住むことができたら安心ね」と微笑みます。
前向きなAさんだったが…
無事に解決策がわかり、Aさんもようやく元気になったようです。
「相続して初めて、相続は手間もお金もかかることがわかりました。いきなり賃貸経営するって難しいことなんですね」
でも、とAさんは続けます。
「もし、父が亡くなる前にここに来て、親子で相続の知識を得ていたら、もっと最善の対策が打てたのに」
Aさんは苦笑いして、こう言いました。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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