“安いニッポン”に世界需要が殺到する
このハイテクでの対中デカップリングと軌を一にして、円が急落した。2021年には100円台であったドル円は2022年央には150円へと、3割以上の急落となった。
長らく続いた「超円高」時代→突如「世界的低物価国」に
米国による日本叩きの手段として、日本円は長らく異常に強い時代が続いた。
1990年代から2010年頃まで、日本の強い産業競争力を抑制するため超円高が定着し、日本円は購買力平価を3割以上上回り続けたが、その結果日本は世界一の高コスト国となり産業競争力が著しく弱体化した。製造業は国内工場を閉鎖し、雇用を削減し海外に拠点を移した。銀行は日本の潤沢な貯蓄を海外融資に振り向けた。円高により人も金も工場もビジネス機会も日本を離れ、日本経済に停滞が残った。日本のハイテク産業は韓国、台湾、中国に完敗した。
それがこの円安の結果、日本は突如、世界的低物価国になったのである。2023年時点での円の購買力平価は95円、それに対して実際の為替レートは139円なので、円は実力よりも4割近く割安になった。
円高により日本から離れた世界の需要が、円安により急速に日本に集中しようとしている。米国による円安容認がこの流れの中心にあることは、さまざまな状況証拠から明らかである。
Jカーブ効果、インバウンド…日本経済は「もっとも明るい数量景気」に
2023年の日本経済はバブル崩壊後、もっとも明るい数量景気の年となるだろう。Jカーブ効果により円安初期の価格面でのマイナス場面が終わり、数量増の乗数効果が表れる時期に入る。円安で日本の価格競争力が強まり、工場の稼働率が高まる。また割高になった輸入品の国内生産代替が起きる。
政策投資銀行、日銀短観、日経新聞など各種の設備投資調査では、すでに2022年において設備投資が過去最高レベルの伸びとなっている。円安はまた、インバウンドを増加させ、外国人観光客が日本の津々浦々の地方内需を刺激する。安いニッポンに向かって、さまざまなチャンネルを通じて世界の需要が集中し、国内景気を活性化し始めている。
そもそも日本のデフレは、円高で競争力を失った企業が賃金抑制に走ったことから始まった。しかしいま、労働需給はひっ迫し、企業は国内生産体制の構築のために高い賃金を払ってでもいい人を採用し、競争力のあるチームを作らなければならなくなった。
「労働はコストではなく価値創造の源泉である」という認識の転換が起きている。連合によると2023年の平均賃上げ率 (5月10日集計結果) が3.67%と30年ぶりの高さとなった。
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