9.事業承継の準備
スムーズな事業承継に向け、売り手は事前に準備をしておく必要があります。まずはどのような資産があるか把握し、企業価値を高めるための磨き上げを実施しましょう。税務についても把握しておくと、安心して進められます。
9-1.自社の資産を把握
事業承継を行うにあたり、まずは自社の状況を把握しましょう。何より確認するのは資産です。設備や不動産といった有形資産のほか、ノウハウや技術・ブランド・販路・取引先との関係性などの無形資産も含め、明らかにします。
知的財産を所有しているなら、権利者が誰なのかを明確にし、事業承継時にスムーズに引き継げそうかという点についても確認します。
また自社の強みや弱みを知り、業界内におけるポジションや将来性なども整理しておくとよいでしょう。併せて、従業員の人数や平均年齢、株主の状況なども具体的に資料にまとめます。
9-2.磨き上げ
売り手である出版社が売却による事業承継を希望していたとしても、買い手が魅力を感じなければ事業承継はできません。そこで買い手が魅力を感じ、「高額でも買収したい」と考える企業になるよう、『磨き上げ』を実施します。
まず財務状況が分かりやすいよう、会計帳簿や決算書が正しく作成され、見やすく保管されていることを確認しましょう。税金の支払いが滞りなく行われているかもチェックします。
また引き継ぎ後の業務をスムーズに進めやすくするために、組織図やマニュアルを作成しておくのも、買い手にとって魅力的です。
併せて顧客との取引件数や金額も資料にしておくと、先の見通しを立てやすくなり、買い手のリスク低減につながります。
9-3.税務に関する相談
M&Aを実施し事業承継を行うと、元々の経営者は売却の対価を得られます。受け取る金額は、どの手法を用いるかによって変わるでしょう。株式譲渡で会社を丸ごと売却すると、会社の状況によっては数千万円を超える利益を得られるかもしれません。
ただし資産が増えると、将来的に相続税の負担が従来より増える可能性があります。また用いる手法によって、負担すべき税金の種類が変わります。
10.出版社のM&Aの事例
M&Aを活用すると、苦境に立たされている小規模な出版社でも、倒産や廃業を回避できる可能性があると分かりました。具体的にどのような出版社でM&Aが成立しているのでしょうか?三つの事例を確認しましょう。
10-1.負債を抱えた2社を完全子会社化
国土社と理論社は、ともに児童書や教育図書を出版していました。しかし出版不況や少子化の影響から売上が減少し大きな負債を抱え、民事再生法の適用を申請したのです。
この2社を買収し完全子会社化したのは、BSデジタル放送の衛星基幹放送事業で収益を伸ばしている日本BS放送です。オリジナルコンテンツも制作している日本BS放送にとって、国土社と理論社の持つ児童向け図書は魅力的に映りました。
そこでグループの出版事業を担う会社になることを期待し、事業基盤の拡大と多角化経営を目指しM&Aを実施しました。
10-2.デジタル作品の紙版の出版を可能に
創業70年以上の歴史を持つ高陵社を買収したのは、スピーディグループです。スピーディはデジタル限定の出版事業で、優良なコンテンツを制作していました。
またスピーディグループのコミディアは、膨大なデジタルコミックのコンテンツを保有しています。グループは質の高いコンテンツを持っていますが、読めるのはデジタルのみでした。
高陵社の買収により、紙媒体の流通ノウハウを取得することで、人気のデジタルコンテンツを紙版でも出版できるようになった事例です。
10-3.専門コンテンツ力を高く評価
航空関連を軸にした専門性の高いコンテンツが評価されたイカロス出版は、13億6,950万円という高額でインプレスHDに買収されました。インプレスHD自身も、パソコン解説書や登山に特化した雑誌を展開している専門性の高い出版社です。
そのため、今後の事業展開に、イカロス出版のコンテンツが役立つと判断した結果の買収です。インプレスHDのリソースとイカロス出版の企画編集力の相乗効果で、デジタル化やファンコミュニティの構築を目指します。
また法人向け事業の開発も実施する計画とのことです。
11.M&Aは出版業界に光を灯す可能性がある
書籍や雑誌など紙媒体の市場が縮小し、小規模の出版社は厳しい状況に置かれています。今後はデジタル化やコミックへの注力が欠かせませんが、資金力に乏しい会社では実現が難しいでしょう。
そこで期待されているのがM&Aです。M&Aによって資金力のある出版社に事業を引き継げば、小規模な出版社の倒産や廃業を避けられます。
ただしM&Aを実施する際には、手法によって納税義務の発生する税金の種類や金額に違いがある点に注意しましょう。
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