(※写真はイメージです/PIXTA)

相続における最低限の取り分である「遺留分」。相続人には遺留分をもらう権利がありますが、渡さずに済むことは可能なのでしょうか? 実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、解説します。

遺留分侵害額を減少させるための方法

 

(2)遺産を減らして遺留分を減らす

遺留分は、遺産全体に遺留分率を掛けて算定されますので、遺産の全体額を減らせば、これに比例して遺留分も減少します。そこで、(遺産分割の対象となる)遺産の価額を減少させ、遺留分も減少させるという対応が考えられます。

 

ア.贈与

遺留分を計算するときの基礎となる財産を算定する場合、相続時の被相続人の積極財産だけでなく、相続人に対する生前贈与は原則10年以内、第三者に対する生前贈与は原則1年以内の贈与した財産の価額を加えることになります。そのため、相続時から1年以上前に相続人以外(例えば孫など)に贈与していた場合、原則として遺留分算定の基礎となる財産に含まれないことになります。

 

また、特別受益は、相続人に対する婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与であるため、相続人以外への贈与は、特別受益には算入されません(民法903条)。そこで、遺産の全体価額を減少させ、ひいては特定の相続人の遺留分を減少させるために、財産の一部を、相続人以外の者へ贈与して、財産を減らすことが考えられます。

 

ただし、贈与には、原則として贈与税がかかるため、非課税となる特例(年間110万円以内の暦年贈与、住宅資金等の贈与、教育資金等の贈与又は結婚や子育て資金の贈与等)を利用して、当該非課税の枠内で贈与をすべきであると考えられます。なお、税制については改正があるため、確認が必要です。

 

以上を踏まえると、遺留分算定の際に考慮されないように配慮し、かつ非課税となるように贈与して、財産及び遺留分を減少させて、遺言によってこれに見合った最低限の遺産を取得してもらうという対応になると考えられます。

 

イ.みなし相続財産の活用

贈与のほか、みなし相続財産を活用して財産及び遺留分を減少させることが考えられます。生命保険の受取人が受領する保険金は、みなし相続財産として課税の対象にはなりますが、受取人である相続人の固有の権利として、相続財産にはなりません。

 

また、原則として、特別受益にも該当せず、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合に、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となるにとどまります(最二小判平成16年10月29日民集58巻7号1979号)。

 

なお、遺産総額と生命保険金がほぼ同額のケース、遺産と保険金の比率が60%程度という事案では、特別受益性が肯定されています。

 

そこで、例えば、遺産のうちの一定額を、貯蓄型生命保険契約の一時払の保険料として支払って、その保険金の受取人を、財産を承継させたくない相続人以外の相続人としておけば、相続財産の範囲を減少させて遺留分の範囲を縮減しつつ、保険金という形で被相続人の意図する相続人に取得させることができます。

 

(3)相続人の人数を増やして遺留分を減らす

(2)の遺留分対策は、相続財産を減少させることで遺留分を減少させることを意図していました。財産を減少させるほかに、相続人を増やして、1人あたりの相続分を減らすことで、遺留分を減少させることが考えられます。

 

なお、相続人を増やす場合には、養子縁組が考えられますが、相続税の基礎控除が認められる養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合には2人までに限定されており、孫を養子にすると相続税が加算されますので、税務上の取扱いも踏まえて対応することが必要です。

3.遺言の活用

いくら遺留分対策を行ったとしても、遺言がなければ、共同相続人全員で遺産分割協議を行わなければならず、特定の相続人に対する相続をできるだけさせたくないという被相続人の意図に沿うことはできません。そのため、長男C以外の相続人へ財産を相続させるか又は相続人以外の者に遺贈する等の内容の遺言を作成しておく必要があります。

 

<参考文献>

・片岡武=管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務〔第4版〕』110〜115頁(日本加除出版、2021年)

・森公任=森元みのり『法律家のための遺言・遺留分実務のポイント遺留分侵害額請求・遺言書作成・遺言能力・信託の活用・事業承継』98〜110頁(日本加除出版、2021年)

・島田充子「遺留分の放棄」判タ688号403頁(1989年)

 

 

東京弁護士会弁護士業務改革委員会

遺言相続法律支援プロジェクトチーム

 

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※本連載は、東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集の、『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務

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ぎょうせい

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