「ゴースト・ポイント」 の解消法
当然、この不具合を解消する技術が開発されています。指を近づけたときに、 「同時に複数のセンサーの静電容量変化を測定する」ことで、 「ゴースト・ポイント」は解消されて、何本の指で触れてもそれぞれの絶対座標を識別できるのです。
さらには、複雑な指の動きや、指以外の皮膚が接触した場合の判断などの高度な情報処理は、コントローラICに組み込まれたソフトウェアによって担当されるのですが、それらもすべてはセンサーによって得られる、その時々の座標データを随時計算することで可能になっています。
例えば「ジェスチャ処理アルゴリズム」といわれるものは、一〇個の刻々と変化するセンサーのデータから「X座標」「Y座標」を算出し、同時にその座標の移動速度も算出することでドラッグ、ドロップ、回転、ズームといったジェスチャ・コマンドを識別しています。
画面上で何気なく数本の指を移動させてコンピュータやスマートフォンを操ることは、とても愉快なことです。
その快適さ──座標の認識──を実現させるために、実に多くの技術と膨大な座標の計算が、指の下の一センチに満たない世界で行われているのです。
ATMのタッチパネルのしくみ
ところで、スマートフォン登場以前は、タッチパネルは主にATMや自動券売機で使われていました。それが「赤外線遮光方式」です。このしくみは先ほどお話しした静電容量方式に比べると簡単です。
縦方向、横方向に目に見えない赤外線を出す発光ダイオード(LED)と、光センサーであるフォトトランジスタが配置されており、指を置くとその光が遮られます。
「赤外線がどこで遮られたか」によって、指の位置の「X座標」と「Y座標」がわかる、というしくみです。
タッチパネルに、赤外線遮光方式を採用しているデスクトップパソコンがありますが、面白いのはその座標が「三角測量」によって計算されるという点です。自動券売機のように縦横二方向からの赤外線ではなく、ディスプレイの左右の上角にLEDが付けられていて、斜めに赤外線が放射されるのです。
三角測量といえば“「メートル」はフランス革命で生まれた”( 『面白くて眠れなくなる数学』参照)でも登場しているように、その測定の舞台は地上です。たしかに液晶画面も平面ですから、三角測量を適用できるわけです。
地上も液晶画面も同じように包みこんで計算してしまう数学の威力と、それを応用する人類の力は本当に大したものです。
桜井 進
株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役