中小企業がIT(情報通信)人材の賃上げに動き出している。全研本社が実施した中小企業の経営者を対象としたアンケート調査によると、「IT人材の賃上げを考えている」との回答が65%を占めた。国内外の物価上昇が続き、人材獲得競争も激しくなる中、IT人材の賃上げを検討する企業が多いことがわかった。
23年の春季労使交渉(春闘)で予想以上に賃上げの動きが広がったこともあり、IT人材について「10%以上の賃上げを考えている」との回答は30%超にのぼった。少子・高齢化を背景とした人口減少や人手不足への懸念が強まる中、高度人材の賃金に対して上昇圧力が強まっていると見られる。
IT人材の不足や物価高が賃上げ促す
調査は全研本社が中小企業の経営者を対象に2月24~26日に実施し、200件の回答を得た。回答した企業の業種は建設業、製造、卸売・小売、不動産、サービス、情報通信、金融・保険、宿泊など。
アンケートでは「物価上昇が続いているが、すでにいるIT人材の賃上げを考えているか」との質問に対して「考えている」との回答が65%に達した。経済産業省の予測によると、IT人材は2030年に最大で79万人不足する。
足元でもすでに不足が指摘されており、全研本社の中小企業経営者への調査では「自社にIT人材がいない」とした企業が70%に達している。企業は有能な人材の離職を防ぐため、賃上げに積極的な姿勢を示しているとみられる。
賃上げの背景にはマクロ経済の状況もある。日本では円安による輸入物価の上昇や資源価格の上昇などで物価高が続いている。これを受けて、企業にも賃上げ圧力が強まっており、今年の春闘では約30年ぶりの平均賃上げ率となった。人材の獲得競争の激化と足元の物価高という2つの要因が企業に賃上げを促しているといえそうだ。
「IT人材の賃上げ企業」の6割が春闘の平均賃上げ率を上回る
アンケートで「IT人材について賃上げを考えている」という企業に対して「(前年比で)どの程度の賃上げを考えているか」と質問したところ、最も多かったのは「10%以上」との回答で30.8%に達した。10%以上の賃上げは2022年度の消費者物価指数の前年度比上昇率である3%を大幅に上回る。
2番目に多かったのは「2%以上4%未満」で28.2%だった。3番目が「4%以上6%未満」で15.4%だった。「8%以上10%未満」も10.3%、「6%以上8%未満」が2.6%だった。今回の中小企業経営者のアンケートでは、約30年ぶりの高水準に達した春闘の賃上げ率(3%程度)を上回る回答が全体の約6割を占め、IT人材への賃上げ率がほかの職種に比べて高いことを示した。
生産年齢人口は減少、賃上げは今後も必須に
「0%超~2%未満」との回答も12.8%あった。賃上げを「考えていない」との回答も全体の35%を占めており、コスト高が続く中、賃上げをしたくてもできないという企業も少なくないようだ。
しかし、国内の人手不足は今後も続く見通しだ。国立社会保障・人口問題研究所は4月に長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口」を公表した。2056年に人口が1億人を下回り、70年の総人口は現在のおよそ1億2600万人から3割減の8700万人になる。15~64歳の生産年齢人口は70年に4535万人と現在と比べて4割も減るという。
人口減少はすでに始まっており、「IT人材不足・物価高→人材確保に向けた賃上げ」といった流れは続きそうだ。
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