「名誉棄損罪」が成立するための要件
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合には、名誉毀損罪が成立する可能性があります。では、誹謗中傷が名誉棄損罪に該当するといえるためには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか? 主な要件は次のとおりです。
なお、名誉毀損罪は親告罪とされており、被害者からの告訴がなければ起訴することはできません。そのため、加害者を名誉毀損罪に問うためには、被害者が刑事告訴をすることが前提となります。
「公然と」に該当すること
1つ目の要件は、その言動が「公然と」行われたことです。たとえば、社内のほかの人にも聞こえる場所で名誉を毀損するような発言をした場合には、この要件を満たすでしょう。インターネット上であれば、誰もが見ることのできるX(旧Twitter)投稿へのリプライ(返信)やYouTubeのコメント欄で名誉を毀損するような発言をした場合には、この要件を満たすものと思われます。
一方で、ほかに人がおらず、声も外部に漏れない会議室内での発言や、X(旧Twitter)のダイレクトメール(個別メッセージ)などでの言動は「公然と」とはいえず、名誉毀損罪の成立要件を満たさないでしょう。
「事実を摘示」すること
2つ目の要件は、「事実を摘示」することです。たとえば、単なる「バカ」や「クズ」などの発言は事実の摘示とはいえず、名誉棄損罪は成立しません。一方、たとえば「X氏は会社の上司と不倫をしているだけの役立たず」という発言や、「Y氏は会社の金を横領して贅沢三昧をしている」との発言、「Z氏は裏口入学だ」などの発言は事実を摘示しているといえ、この成立要件を満たすといえるでしょう。
なお、ここでいう「事実」というのは、「真実」という意味ではありません。つまり、本当「らしい」ことの指摘であればこれに該当し、実際には不倫や横領、裏口入学などをしていなかったとしても、名誉棄損罪の成立要件を満たします。
「人の名誉を毀損する」こと
名誉毀損罪の3つ目の要件は、「人の名誉を毀損する」ことです。人の名誉を毀損するとは、相手の社会的評価を下げることを意味します。
「違法性阻却事由に該当しない」こと
刑法によれば、次の要件をいずれも満たす場合には、例外的に名誉毀損罪が成立しないとされています(230条の2)。
2. その内容が真実であることの証明があったとき
たとえば、政治家による不祥事の報道などが、この代表例であるといえるでしょう。
~名誉棄損罪が成立し得るケース~
これらを総合すると、次のようなケースでは名誉毀損罪が成立する可能性があるでしょう。
・社内のほかの人にも聞こえる場で「お前は上司と不倫ばかりしているから営業成績が上がらない」などと発言する行為
ただし、名誉毀損罪が成立するかどうかは、発言や投稿の内容、発言や投稿に至る経緯など諸般の事情を総合的に考慮して判断されます。加害者の言動を名誉毀損罪に問えるかどうか迷ったら弁護士へご相談ください。
「侮辱罪」が成立するための要件
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合には、侮辱罪が成立する可能性があります。では、誹謗中傷が侮辱罪に該当するといえるためには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか? 主な要件は次のとおりです。なお、侮辱罪も名誉毀損罪と同じく親告罪とされており、起訴するためには被害者からの刑事告訴が必要となります。
「公然と」に該当すること
先ほど紹介した名誉毀損罪と同じく、言動が「公然と」行われることが要件となります。そのため、1対1のダイレクトメールでされた言動や他者のいない空間での言動については、原則として侮辱罪に問うことはできません。
「人を侮辱した」こと
2つ目の要件は、人を侮辱したことです。名誉毀損罪とは異なり、事実の摘示までは必要とされません。たとえば、「お前は無能だから死んだ方がマシだ」という発言や、「ぶすでキモい、消えてほしい」などの発言は、特に事実の指摘はありません。しかし、相手を侮辱する発言であることには変わりありませんので、侮辱罪には該当する可能性があるでしょう。
~侮辱罪が成立し得るケース~
これらを総合すると、次の言動は侮辱罪に該当する可能性が高いでしょう。
・ほかの社員にも聞こえる場で「お前は無能だから死んだほうがマシだ」と罵倒する行為
ただし、こちらも名誉毀損罪と同じく、発言や投稿の内容、発言や投稿に至る経緯など諸般の事情を総合的に考慮して判断することとされています。受けた誹謗中傷について侮辱罪に該当するかどうかに悩んだら、早期に弁護士へご相談ください。
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