(※写真はイメージです/PIXTA)

他者の肖像権を侵害すると、差止請求や損害賠償請求の対象となります。そもそも、肖像権とはどのような権利を指すのでしょうか? また、肖像権侵害であるか否かは、どのような基準で判断されるのでしょうか? Authense法律事務所の弁護士が肖像権の身近なトラブルについて解説していきます。

肖像権の基本的な概念

はじめに、肖像権の基本的な概念について解説します。

 

「肖像権」とは?

肖像権とは、簡単にいえば、承諾なく容貌や姿態の撮影などをされない権利です。生活をするうえで、突然無断で写真や動画を撮影されたり、これをSNSに無断で投稿されたりすれば、安心して生活することはできません。このようなことをされない権利が肖像権です。

 

肖像権に明文の規定はない

肖像権について、法令に明文の規定はありません。肖像権は判例で確立されてきたものであり、日本国憲法の幸福追求権から派生したものです。幸福追求権について、日本国憲法では次のように定めています(憲法13条)。

 

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

肖像権と混同されやすいほかの権利

肖像権は明文の権利がないがゆえに、しばしばほかの権利と混同されます。ここでは、肖像権と混同されやすい主な権利を3つ紹介します。

 

パブリシティ権

パブリシティ権とは、人格権に由来する著名人の顧客吸引力を保護する権利です。

 

広告には、芸能人などの著名人が多く起用されています。これは、その著名人に顧客吸引力があり、ユーザーが「この人がPRしているなら使ってみよう」と商品を手に取ってくれる効果が期待されているためです。また、ある著名人の写真が載っていることで、これを目当てにカレンダーなどの商品を購入することもあるでしょう。

 

だからこそ、企業は対価を支払って著名人にCM出演などを依頼するのです。そうであるにもかかわらず、製品やそのCMなどに無断で著名人の写真などを使用されてしまうと、著名人は正当な対価を得る機会を失ってしまいます。

 

そこで、判例上確立されているのが、この顧客吸引力を保護するパブリシティ権です。ただし、肖像権は「肖像」だけに焦点を当てることに対し、パブリシティ権は「芸能人の〇〇も愛用」など、氏名の表示などだけでも侵害となり得ます。

 

プライバシー権

プライバシー権とは、私生活上の情報を無断で公表されない権利です。

 

たとえばラブホテルにいる顔写真を撮影して公表した場合、「プライバシー権」と「肖像権」の侵害に当たり得るのに対して、「〇〇さんがXXさんとラブホテルに入った」という文章だけを公表した場合は、肖像権の侵害とはなりません。この場合は、「肖像」を撮影したり公表したりしたわけではないためです。一方で、プライバシー権の侵害となったり、名誉毀損罪に該当したりする可能性はあります。

 

また、ほかの商品に使用されている著名人の顔写真を無断で自社製品のPRに盗用した場合はパブリシティ権の侵害に該当する可能性がある一方で、プライバシー権の侵害には当たらないでしょう。この場合は、著名人のプライベートを隠し撮りしたわけではないためです。

 

このように、プライバシー権と肖像権は重なる部分も多いものの、一方で「プライバシー権の侵害ではあるが肖像権侵害ではない」場合や「肖像権侵害ではあるがプライバシー権の侵害ではない」場合もあります。

 

著作権

著作権とは、著作物を保護するための権利です。著作権はここで紹介したほかの権利とは異なり、「著作権法」に明文の規定があります。著作権の保護対象は、著作物です。著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を指します(著作権法2条1項)。

 

著作物の捕捉範囲は非常に広く、プロが書いた小説や絵画、プロが作曲した音楽などはもちろん、次のものなども「思想または感情を創作的に表現したもの」であれば著作物となり得ます。

 

・企業のブログ記事
・幼児が描いた絵
・学生の作文
・一般個人がスマートフォンで撮影してSNSに投稿した写真

 

たとえば、ある人物がプライベートな空間で撮られた写真を無断でSNSに公開した場合、これは肖像権の侵害となり得ます。また、この写真が「著作物」である場合、投稿されたこの写真を無断で複製などした場合は、(写っている人物ではなく)撮影者の著作権を侵害します。

 

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