中国の巧妙な仕掛け
「三戦」に「サラミスライス戦術」と「キャベツ戦術」を連動させた中国の工作には、計算尽くの巧妙な仕掛けが潜んでいるのである。
(1)対日本工作
まず、中国は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土である尖閣諸島を、中国の「領海・接続水域法」で自国領土と規定した「法律戦」に訴えつつ、妥協の余地のない「核心的利益」と主張している。
その虚構の上に、尖閣諸島周辺海域で漁船(海上民兵)を活動させ、その保護を名目に、あるいは同海域で適法に操業する日本漁船を違法操業として取り締まるとの口実で、海上法執行機関(海警)を常続的に出動させている。
そして、「釣魚島は中国固有の領土である」という題目の白書を発表するとともに、いかにも尖閣諸島を自国領として実効支配しているかのように国際社会に向けた大規模な「輿論戦」を繰り広げ、同時に、日本及び日本国民に対しては力の誇示や威圧による士気の低下を目的とした「心理戦」を展開している。
(2)対台湾工作
台湾に対し中国は、いわゆる「独立反対・統一促進」の目標を展開するため、「三戦」思想を採用するとともに、ソフト・ハード両面の工作をレベルアップさせている。
ソフトな策略では「台湾人民に希望を託す」との統一戦線工作を強化し、ハードな工作では軍事、外交、政治、法律面において「独立反対・独立禁止」を口実に「一つの中国原則」の枠組みを国際社会において拡散させている。
「台湾人民に希望を託す」との統一戦線工作では、経済的利益によって台湾の特定の地域、党派、部族、階層、業界を懐柔して世論を知らず知らずのうちに「一つの中国原則」という統一戦線の枠組みに誘導し、同時に台湾の政府と国民との間に対立する矛盾を作り上げて台湾の民意を主導し、中台関係の行方をコントロールしようとしている。
また、中台間の貿易関係の交流を深め、とりわけ「独立反対」と「92共識(コンセンサス)」を前提とした中台政党間の交流と対話や民間の交流と往来を強化し、台湾の中国経済に対する依存度を高めている。「一つの中国原則」の軍事面では、台湾の武力統一を前提とした「軍改革」により対台湾部署を強化し、台湾を包囲するような形での軍事演習を常態化して威嚇の手段としている。
外交面では、国交のある国や国際組織に「一つの中国原則」をアピールして台湾を国際的に孤立させ、台湾の主権弱体化の徹底を図っている。そして、法律面では「反国家分裂法」を制定して台湾への武力行使の法的根拠とするなど、これらの相乗効果をもって「戦わずして台湾を屈服させる」との工作をいよいよ強めている。
このように、中国の日本や台湾に対する軍事・非軍事的手段の複合的使用による「戦争に見えない戦争」は、すでにこの段階まで進んでおり、中国の尖閣・台湾奪取工作は危機的状況にまで高まっている。そして、中国は、同島周辺地域で不測の事態が起きることを虎視眈々と窺っており、もしそのような事態が発生すれば、力による現状変更の好機と見て軍隊(海軍)を出動させ、軍事的解決に訴える態勢を整えているのである。