【遺産総額1億7000万円】「遺言書、書いて」「はぁ? 縁起でもない!」…73歳夫の急死で、子のない妻が流した涙のワケ【相続実例】

【遺産総額1億7000万円】「遺言書、書いて」「はぁ? 縁起でもない!」…73歳夫の急死で、子のない妻が流した涙のワケ【相続実例】
(※写真はイメージです/PIXTA)

70代の男性が突然死し、妻に相続が発生しました。しかし、妻には子どもがありません。遺言書もなかったことから、妻は面倒な相続手続きを行う羽目に…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

夫を亡くした妻…懸念している「夫親族」の存在

今回の相談者は、68歳の専業主婦の小林さんです。急死した73歳の夫の相続について困っていると、筆者のもとを訪れました。

 

小林さんの夫は輸入品の販売でそれなりの財産を築いたほか、夫の両親から引き継いだ不動産も保有しています。商売の規模は縮小しつつ、現役で働いていましたが、2カ月ほど前に外出先で倒れ、帰らぬ人となりました。慌てた小林さんは、夫の顧問税理士に相続の相談をしましたが、専門外だからという理由で、話を聞いてもらえなかったそうです。ただ、そこで重要な情報を聞かされました。

 

「税理士の先生は、私たち夫婦には子どもがいないため、夫にきょうだいがいれば、その人も相続人になるというのです。夫にはひとり弟がいますが、ずいぶん前に亡くなっていて…。男の子と女の子がひとりずついるとも聞いています」

 

小林さんの話の通りなら、亡き義弟の子どもたちも相続人になるわけですが、ここで難問がありました。

 

「30年以上前、夫は自分の仕事を義弟に手伝わせていたことがあったそうですが、取引先とたびたびトラブルを起こすため、退職させたと聞いています。収入がなくなった義弟は離婚し、奥さんは子どもたちを連れて郷里に帰ったそうですが、いずれも私が結婚する前の話で、私は甥姪の名前も連絡先も知りません…」

「遺言書、書いて?」「縁起でもない!」

小林さんは、最初に相談を持ち掛けた税理士に、遺言書の有無を尋ねられたそうです。もし「妻に全財産を相続させる」といった内容の遺言書があれば、相続手続きはシンプルでしたが、そうはなりませんでした。

 

「夫が60代になったとき、何かのきっかけで、遺言書を残すよう頼んだことがあります。ですが〈縁起でもない!〉と激怒してしまい…。それ以来、そういった話はタブーになりました…」

 

小林さんはハンカチで涙を押さえました。

 

「だから言ったのに…と、夫に言ってやりたい気持ちです」

 

小林さんの夫の財産は、親から引き継いだ自宅不動産が約5000万円、事務所として使っていたマンションが約2000万円、預貯金が約1億円の、合計1億7000万円程度です。相続税の申告が必要ですが、それまでに遺産分割協議をする必要があります。

 

小林さんの夫はリタイアを見越し、数年前から商売を縮小していました。小林さんも若いときに夫の仕事を手伝っていたことから、仕事内容は理解しており、税理士のアドバイスを受けながら閉店の準備を進めるということで、そちらはどうにかなりそうです。

 

小林さんの場合、まずやるべきは相続人の確定です。筆者は小林さんに、司法書士に依頼して、亡義弟の子どもたちの住所を調査することから始めるようにアドバイスしました。その後、甥姪に夫が亡くなったことを知らせ、遺産分割協議をするという順になります。

 

小林さんは、自分だけでは進められないということで、筆者の事務所の提携先の司法書士と、やはり提携先の相続に慣れた税理士にも依頼し、必要な手続きを進めることになりました。

 

諸々の交渉・手続きは、まさにこれからスタートするところです。

自宅売却とならず、とりあえずはよかったが…

幸い小林さんの夫の財産は、2つの不動産より預金が多い状況でした。小林さんの住まいである自宅は相続し、築古となったマンションは売却して換金し、甥姪には現金を渡すという分割案の提案を予定しています。

 

筆者からは、交流のない代襲相続人と遺産分割協議書を作成することの大変さを考慮し、代襲相続人の権利を小林さんに譲渡するという方法も現実的な選択肢であるとお伝えしました。

 

今回、不動産より現金の比重が大きかったことは本当にラッキーでした。財産が自宅不動産しかなく、代償金も準備できなければ、最悪、住み慣れたわが家を手放すというリスクもあるからです。

 

また、交流のない代襲相続人には分割協議ではなく、相続分を譲渡する方法を選択してもらうのも手続きを楽にするポイントです。子どもがいない小林さんのようなケースでは、配偶者4分の3、きょうだい4分の1の法定割合となりますが、相続分の譲渡は相互に納得できる額で決めることも可能です。

 

とはいえ、上述したとおり、遺言書に「妻に全財産を相続させる」と書いておけば、小林さんはこのような大変な思いをすることはなく、甥姪への遺産分割も不要でした。自分亡きあとについて考えるのは、気が進まないことかもしれませんが、残された家族を思うのであれば、やはり、対策しておくことが大切だといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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