(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性が保有する駐車場は、形状が特殊なうえ複数の親族で共有するなど、権利関係も複雑です。そして明確にいえるのは、現状では収益面のメリットがないばかりか、節税にもつながらないということ。そんな男性に業者から賃貸物件の建築を持ち掛けられますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

固定資産税とトントン…収益のいまいちな駐車場

今回の相談者は、63歳会社員の吉田さんです。父親から相続した土地をどうするべきか、アドバイスが欲しいとのことで筆者のもとを訪れました。

 

吉田さんは相続した土地を駐車場として貸しています。しかし、ハウスメーカーから「観光地に近いので、ゲストハウスを建てたほうがいい」と勧められ、迷っているそうです。

 

「土地は250坪と広く、業者によると、3階建ての建物が建てられるそうです。建築費は4億円で、運営は専門業者によるサブリースを想定しています」

 

「私は一度定年退職し、いまは中小企業に再就職していて、もう高い収入は見込めません。今回の話はあまりに金額が大きく、この提案を進めていいのか、さっぱり判断ができません…」

 

吉田さんからお聞きすると、駐車場の土地固定資産税は年間120万円で、毎月の駐車場の収入は15万円とのこと。これではほとんど手元に残りません。また、駐車場のままでは節税効果がないため、相続税が1500万円かかることもわかり、土地活用したほうがいいということは明白です。

場当たり的な相続で、土地の権利関係が複雑に

そのほかにも課題がありました。土地は5人の共有となっているのです。吉田さんと弟がそれぞれ48%、吉田さんの妻が2%、吉田さんの息子2人がそれぞれ1%ずつと複雑です。

 

吉田さんの父親の相続では、まず母親がすべてを相続し、その後、吉田さんの妻や息子たちに贈与しました。しかし、母親はその後すぐに亡くなってしまったため、今度は吉田さんと弟の2人で等分に相続したということです。

 

お話を聞く限り、兄弟仲はいいので、いまのところ問題は浮上していませんが、将来を見据えれば、いずれは共有を解消しておく必要があります。

 

土地を兄弟で等分に分けられればいいのですが、この駐車場は間口が狭く、奥に広がった形状となっており、2分割するには無理があります。

 

以上の点から、まずは賃貸物件の建築を検討し、土地の収益性を高めてから、権利関係を整理することが得策だといえます。

高額な費用がかかる賃貸物件、収支バランスは大丈夫?

賃貸事業を行う場合、収支バランスが取れることが絶対条件です。ほかにも、建物のコンセプトや仕様など諸々のポイントに対し、適切な判断が必要となりますが、一般の方には難易度が高いといえます。

 

では、メーカーに一任すればいいのかというと、そうとも言い切れません。建ててはみたものの収支が合わず、後悔している人は少なくないのです。

 

賃貸物件の建築には多額の費用がかかります。そのためにも、ひとつの業者にだけ話を聞くのではなく、複数の業者から提案を受け、総合的に判断する必要があります。

 

吉田さんは筆者と同席した税理士から上記のような説明を受け、まずは提案してきた業者以外にも、複数の業者から見積もりを出してもらうことにしました。

 

「ほかの業者にも話を聞き、即断は避けたいと思います」

 

吉田さんは、そういって事務所を後にされました。

承継した土地も、持っているだけでは「マイナス財産」

土地持ちの方の多くは、先代から受け継いだ状態のまま保有することを望みますが、土地はただ保有しているだけでは固定資産税がかかる「マイナス財産」に過ぎません。立地に合わせ、収支バランスの取れる活用をすることが不可欠なのです。

 

むしろ、土地の活用なくしては、次世代への財産の承継や節税は実現しません。今回の吉田さんのケースは、そのまま駐車場として運営し続けても収益が上がらず、節税にもならないため、何らかの対処が必要なケースだといえます。

 

また、人口減少が顕著な現在の日本では、昭和のように「建築すればだいたい儲かる」時代ではありません。収益性の高い物件を建築するには、さまざまな角度からの慎重な見極めが重要です。

 

絶対に譲れないのは、賃貸事業の収支バランスが取れること、そして、建築費が適正であること。建築会社の合い見積もりを取り、比較検討することは重要です。とはいえ、上述したとおり、建物のコンセプトや仕様など諸々の重要事項についても、一般の方が判断するのは容易ではなく、また、業者の提案どおりに建てて後悔する事例もあります。今回、吉田さんが他者にアドバイスを求めたのは適切な判断だといえます。

 

日本では土地活用のコンサルティングがまだ定着していませんが、長期投資となる賃貸事業は、建築から運営のプロセスにおいて、さまざまな判断が必要となります。また、最初に多額の費用がかかることから、失敗はぜひとも回避したいものです。その点、土地活用や賃貸事業の専門家による提案やアドバイスを生かすせば、適切な収支バランスが取れる賃貸事業にできる可能性が高まります。不動産の売買に仲介業者が入るように、賃貸事業のコンサルタントも有益な存在だといえるでしょう。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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