(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシア・ウクライナ紛争によってエネルギー価格が高騰し、企業経営者・ビジネスパーソンの間では「ESGを一時棚上げする」という思考が広がっています。本稿では、フロンティア・マネジメント株式会社の代表取締役を務める松岡真宏氏と、同社のマネージング・ディレクターである山手剛人氏の共著『ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄』から一部を抜粋し、深刻なエネルギー不足を前に起きている「脱炭素社会への移行」に対する風向きの変化について解説します。

世界中で深刻化する「エネルギー不足」の現状

実際、世界中、とりわけ欧州におけるエネルギー不足は深刻化している。今後のロシア・ウクライナ情勢次第では、その深刻さはさらに増す。

 

冷戦終了後、サプライチェーンは、平和なグローバル経済を前提に構築されてきた。しかし、紛争勃発により、世界中のサプライチェーンが分断された。部品や資材のグローバルな調達は困難となり、企業の経済活動は支障をきたしている。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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だからといって、国内で部品や資材を調達しようとしても、エネルギーが安価で潤沢でなければ、それも容易ではない。

 

ウクライナ侵攻をきっかけに、風向きが変わった。戦争状態では、脱炭素社会への移行どころではない。

 

中長期的なことはさておき、いったんここは、ESGのEは棚上げしよう。エネルギーを確保するため、原油や天然ガスの増産をすべきではないか。エネルギーコストの上昇が企業活動や国民に影響を与えないよう、政府は様々な補助をして、企業や国民がエネルギーを従来通りに使用できるようにすべきではないか。

 

このように、Eを逆回転させる言説が噴出している。実際に資金の流れも変調している。

 

メディアの報道でも、ウクライナ侵攻によるエネルギー不足の中で化石燃料への回帰が始まり、金融機関も脱炭素を進める国際的組織から脱退し始めていると伝えている。

 

例えば、オーストラリアの建設業界の年金基金シーバススーパー、オーストリアの連邦年金基金ブンデスペンシオンスカッセが「グラスゴー金融同盟」の参加団体から脱退した。

 

この2つの基金自体は中小型だが、米国では大手のJPモルガンやバンク・オブ・アメリカが脱退を示唆している。

 

米国では、化石燃料に経済を依存している州があるが、これらの州は、“化石燃料から投資撤退する”金融機関との取引を禁じる方針を発表している。米国の大手金融機関は、ESGのEを強調し過ぎて、化石燃料依存の州に取引禁止を通告されることを恐れているのだ。

 

こうしてロシアのウクライナ侵攻は、Eに対する再考を促している。

 

 

松岡 真宏

フロンティア・マネジメント㈱

代表取締役 共同社長執行役員

 

山手 剛人

フロンティア・マネジメント㈱

マネージング・ディレクター コーポレート戦略部門 企業価値戦略部長 兼 産業調査部

 

ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄

ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄

松岡 真宏・山手 剛人

日経BP

お飾りのSDGsでは勝てない。混沌とする世界のサステナビリティ動向を俯瞰して見えてきた、残念な日本企業の姿――。 脱炭素(E)の追求は、エネルギー危機で迷走!ESGの焦点は、日本企業が苦手なSとGへ。 〔地球・社会によ…

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