ロシアのウクライナ侵攻がEの再考を促す
ロシアのウクライナ侵攻は、主要国で広がっていた社会の持続可能性というテーマを改めて考えるきっかけとなった。
戦争という暴力行為の発動は、平時に蓄積される精緻で理性的な議論を瞬時に破壊する。そして、識者や一般国民を巻き込み、感情的な議論を台頭させる。
世界でも指折りの天然資源国であるロシアが戦争に突入したことで、ESG重視の動きが部分的に小休止する可能性が出てきている。
ウクライナ侵攻の2カ月後、2022年4月14日にステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)は「ESGの観点から考えるロシア・ウクライナ戦争の意味」というレポートを配信した。
同レポートでは、戦争による人権侵害という観点で、ネガティブスクリーニングが行われ、「ロシアは事実上、投資不可能な地域となり、国際的な投資家の視点からすると、ロシア企業に深刻な結果をもたらす」としている。
一方で、エネルギーの動向については長期的な移行期の燃料として原子力と天然ガスの選択が行われ、脱炭素化スケジュールに関する規制が緩和される可能性を指摘している。
さらに米国については、「欧州の液化天然ガス(LNG)ショックとの関連で、米国のシェール・セクターやLNG(およびロシア産以外の天然ガス)を取り巻くバリューチェーン全体が恩恵を受ける」と予測している。
大和総研も、「大和総研調査季報2022年夏季号」において、「ロシアのウクライナ侵攻がESG投資に与えた教訓」という論考を掲載した。
同論考では、ESGのそれぞれが軍事侵攻の影響を異なるマグニチュードで受けていると分析している。
同論考では、人権(S)やガバナンス(G)の観点では改めてその重要性が認識される一方、脱炭素社会への移行(E)については、そのプロセス自体が影響を受けるだろうと結論づけている。
これは、SSGAとほぼ同様の見解だ。
フォーブス・ジャパンの記事では、とある経営者のこんなコメントを紹介していた。
「うちもDXはやらないといけないと思っているが、ESG経営はどうなんだろう? ロシア・ウクライナ紛争でエネルギー価格は早くも高騰し始めている。電気料金、物流コストが連動して上がっているほか、円安傾向で原料コストも上がり経営を直撃している。こんな時にSDGsやESGと綺麗事を言っている余裕が本当にあるのか?」
この経営者のように、ESGを一時的に棚上げするという思考が、多くのビジネスパーソンにぼんやりと広がっている。