時代の変化に伴って、求められる「専門家」も変わります。かつて、高度な金融工学を駆使ししてウォール街に莫大な利益をもたらした理系エリートが「時代の寵児」となったように、ESG推進の潮流の中にある今日では、環境や人権の専門家が脚光を浴びるようになっています。本稿では、フロンティア・マネジメント株式会社の代表取締役を務める松岡真宏氏と、同社のマネージング・ディレクターである山手剛人氏の共著『ESG格差 沈む日本とグローバル荘園の繁栄』から一部を抜粋し、ESGを掲げる社会で不可避な専門家との連携について解説します。
台頭するパワーエリート
時代が変われば、社会が必要とする専門家も変わる。自ずとその地位は上がり、彼・彼女らは、パワーエリートと呼ばれる。場合によっては時代の寵児となる。そして、時代の歯車を力強く回していく。
1990年代、米国の航空宇宙局NASAでは予算が大幅に削減された。職を失った多くの理系エリートはウォール街に職を求めた。
彼らが生み出す金融工学は、巨額の収益を投資銀行や投資ファンドにもたらした。投資銀行のボードメンバーは、伝統的な株式営業や投資銀行部門ではなく、債券やデリバティブ部門出身者が占めるようになった。
投資ファンドは兆円単位の資金を扱う巨大な存在となった。政府高官を顧問に迎え、ステータスを高めた。巨万の富を獲得した創業者らは、その資金をさらに新しいスタートアップに投資し、新しいベンチャー企業の育成をした。
ファンドの成功によって得た富が西海岸のワイナリーを潤し、新たな富の象徴のような稀少ワインを生み出した。
かつてはNASAや大手電機メーカーで勤務するような理系エリートがビジネスの世界で寵児となることはなかった。しかし、時代がそれを要請し、多くの理系エリートがビジネスの世界で成功を収め、新たなパワーエリートの地位を獲得したのだ。
21世紀に入ると、デジタルサイエンスやバイオサイエンスの専門家が求められる時代となった。彼らはベンチャーキャピタルから十分な資金を獲得し、起業家となった。
ITやバイオ関連のスタートアップ企業は、すぐには利益が出ない。しかし、利益が十分出ていないにもかかわらず、株式上場が果たされ、これら企業の株価は急上昇した。
デジタルサイエンスやバイオサイエンスの専門家は、起業家としてだけでなく、新富裕層としても脚光を浴びた。
この分野での21世紀のスタートアップは、爪に火を点すような伝統的な起業とは一線を画す。新たなパワーエリートが勃興する仕掛けである。
いつの世も、専門家は、時代の要請という触媒(カタリスト)を梃子(てこ)に、専門家という範疇を超える。そして、その時代の主役の一角を占める。
フロンティア・マネジメント株式会社
代表取締役 共同社長執行役員
職歴
株式会社野村総合研究所、バークレイズ証券会社を経て、1997年にUBS証券会社(現、UBS証券株式会社)に入社し、1999年に株式調査部長兼マネージングディレクターに就任。2003年に㈱産業再生機構に入社し、マネージングディレクターに就任。2007年にフロンティア・マネジメント株式会社を設立し、代表取締役に就任。2012年にフロンティア・マネジメント株式会社の中国現地法人であるFrontier Management (Shanghai) Inc.(100%子会社)の董事長に就任。
著書に『「時間消費」で勝つ!』(共著、日本経済新聞出版社)、『宅配がなくなる日』(共著、日本経済新聞出版社)、『経営コンサルタントが読み解く 流通業の「決算書」』(監修、商業界)『持たざる経営の虚実』『時間資本主義の時代』『「良い投資」とβアクティビズム』監訳、『ESG格差』(日本経済新聞出版社)などがある。
学歴
東京大学経済学部卒業
著者プロフィール詳細
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連載投資家ならSDGsと併せて知っておくべき、ESGを専門家が解説!
フロンティア・マネジメント株式会社
マネージング・ディレクター コーポレート戦略部門 企業価値戦略部長 兼 産業調査部
職歴
1999年にウォーバーグ・ディロン・リード証券会社(現UBS証券株式会社)に入社。2003年に同社株式調査部で小売セクター担当のシニア・アナリストに就任。2010年にクレディ・スイス証券会社に移籍。小売セクター担当のアナリストと消費関連産業の調査グループリーダーを兼務。2017年にフロンティア・マネジメント株式会社に入社。
専門
小売業界
学歴
東京大学経済学部卒業
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