企業を追い込むESGの3つの経路
ESGのG対応の巧拙によって企業間の収益性は大きく二分され、優良企業と非優良企業とに各企業が分断される。単に収益性が高いだけでは意味がないのがESGのルールだ。
収益性の高さを支えている企業活動の質自体も要求される。反ESG的な行動規範による高い収益性は評価されない。ESGシンパな企業活動を通して、高い収益性の実現が要求されるのだ。
そうしてESGは、企業を取り巻く「人・モノ・金」の3つの経路で企業に行動変容を促す。
具体的には、投資家による資本の流れ、労働者の就労先の選択、B2Bにおける取引先の選定などだ。資本・労働・商品サービスといった3つの経路を通じて、反ESG企業をあぶり出し、企業の戦略や行動規範に変容を迫る。
これこそが、ESGが追求・推進される世界である。
とりわけ、若者・学生は社会的欲求への強い志向を示している(人・モノ・金のうちの“人”)。
彼らは、反ESG的な企業には就職したがらない。それが名の知れた日本を代表する企業であったとしても。ESGに反するような企業の名刺を持たされることは格好が悪い。彼・彼女らの理性や感性とは相入れないのである。
SDGsやESGというスローガンを彼らが概念として知り尽くしているかどうかは不明だ。しかし、彼らは社会の持続可能性の重要性を、アプリオリに感性で理解している。
若者には残されている将来時間も長い。
ESG的な思考との親和性も高い彼らが年齢を重ねることで、ESGへの感度の高い人口の比率は不可逆的に上昇するだろう。
MS&ADインターリスク総研が、2020年2月に行ったアンケート調査(サンプル数=1000人)にもそうした傾向がうかがえる。
質問は、「企業がSDGsの取り組みを積極的に行っており、環境・社会・働き方課題の解決に貢献しているとしたら、あなたが就職・転職先の企業を選択する上で、どの程度影響しますか?」というものだが、78%の人が「影響する」と回答した。
「企業の積極的なSDGsの取り組みとその情報発信(アピール)は、商品・サービスの購入にどの程度影響しますか?」に対しても、81%の人が「影響する」と回答している。
東大新聞オンラインによれば2021年度の学部卒業生の就職先の1位は楽天グループだったという。
「東大金融研究会」というサークルがあり、筆者の松岡もこの研究会で講演をした折に、参加者の真剣さや知的貪欲さに圧倒された記憶がある。
楽天の初代IR部長を務めた市川祐子はその著書『2030年会社員の未来』で、東大の同サークル向けに株式市場についてオンラインで話をしたときに、希望の就職先を聞いたところ、投資家と起業家が人気で、メガバンクは非常に少なく、官僚はゼロだったと述懐している。
東大生の就職先における人気がすべてではないことは言うまでもないが、彼らが歴史的に就職先として選んでいた官庁、大企業、大手金融機関が、人気を失いつつあることは、何かを物語る。
“人”の流れが着実に変化しているということなのである。