SNS上で「誹謗中傷」されたときに追求できる法的責任
広辞苑によれば、誹謗中傷とは、根拠のない悪口をいって相手を傷つけることです。ただし、「誹謗中傷」は法律用語ではありません。そのため、誹謗中傷がなされたからといって、直ちになにか犯罪が成立したり、損害賠償請求をしたりすることができるというわけではありません。SNS上で誹謗中傷をされた場合、追求できる可能性のある法的責任は次のとおりです。
誹謗中傷と「名誉毀損罪」
刑法上、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず」名誉毀損罪に該当するとされています。つまり、誹謗中傷が次の3つの要件を満たす場合には、名誉毀損罪に問える可能性が高いでしょう。
「公然と」に該当すること:大勢の人がいる前での発言や、SNS上での発言など、他者が聞くことや見ることのできる場での発言であることです。
「事実を適示し」に該当すること:「A氏は不倫をしている」「A氏は会社の金を横領している」など、本当であるようなことを発言することです。なお、ここでいう「事実」とは「本当のこと」という意味ではなく、実際にはA氏が不倫や横領をしていなかったとしても、この要件を満たします。
「人の名誉を毀損」したこと:発言により相手の名誉を毀損したことです。
なお、それぞれの定義は、次のとおりです。
「公然」:不特定または多数の者が直接に認識できる状態のこと
「事実を適示」:具体的な事実内容を示すこと。ただし、内容が真実であることまでは問われません
「人の名誉を毀損」:相手の社会的地位を低下させること
これらをまとめると、たとえばYouTubeのコメント欄や、ほかの人が見ることができるX(旧Twitter)などのSNS上で「A氏は不倫をしている」「A氏は裏口入学をした」などと発言することは、名誉毀損罪に該当する可能性が高いでしょう。
一方、ダイレクトメールなど他者が見ることのできない場での誹謗中傷は、原則として名誉毀損罪に問うことができません。
~名誉毀損罪の罰則~
名誉毀損罪の法定刑は、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
誹謗中傷と「侮辱罪」
刑法上の侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者」が問われる罪です。先ほど解説した名誉毀損罪とは異なり、法文上、事実の摘示がなくても該当することになります。たとえば、SNS上などほかの人が見ることのできる場で「馬鹿」「ぶす」「キモい」などと発言することは、侮辱に該当する可能性があります。
~侮辱罪の罰則~
侮辱罪の法定刑は、以前は「拘留または科料」のみでした。しかし、令和4年(2022年)7月7日からは、「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」へと引き上げられています。 これは、テレビ番組に出演していた女性がSNSでの誹謗中傷を理由に自殺をした事件を受け、侮辱罪の法定刑が軽すぎるとの見方が強まったためです。
誹謗中傷と「損害賠償請求」
損害賠償とは、相手の行為により自分が受けた損害を賠償してもらうことです。誹謗中傷により損害を被った場合には、相手に対して損害賠償請求をすることが選択肢の1つとなります。
なお、上で紹介をした「名誉毀損罪」や「侮辱罪」は刑法を根拠とするものである一方、損害賠償請求は民事上の請求です。そのため、損害賠償請求が認められるかどうかの判断基準などは、名誉毀損罪や侮辱罪に該当するかどうかの判断基準などと必ずしもまったく同じというわけではありません。