不動産取引を安全&円滑に…「不動産登記」の制度
不動産登記とは、不動産の状況と権利を記録して、一般公開することによって、不動産取引の安全と円滑を図るための制度です。
法務局に行けば、だれでも登記簿を調べることができ、登記事項証明書として交付を受けることができます。インターネットのオンラインでも可能です。
土地の単位のことを「筆」といいますが、私たちが不動産を取得するときには、一つの筆ごとに登記簿を入手し、所在地、面積、所有権などを確認することが不可欠となります。
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「不動産登記簿」の構成と、掲載されている情報
(1)表題部
不動産登記簿は、表題部と権利部の甲区と乙区の3つから構成されています。
表題部には、土地や建物の「表示に関する事項」、すなわち物理的状況が記録されています。
土地の登記では、所在、地番、地目、地積などが記録されます。
また、建物の登記では、所在、家屋番号、建物の種類・構造および床面積などが記録されます。
表題部の登記手続のことを「表示に関する登記」と呼びます。新たに造成した土地や、新築した建物などの所有権を取得した人は、所有権の取得日から1か月以内に、表題部の登記を申請しなければいけません。ここに記録される人のことを表題部所有者といいます。
なお、土地に記録されている地番や、建物に記録されている家屋番号は、私たちが「住所」と呼んでいる番号、すなわち、市町村が定める住居表示とは異なりますので注意が必要です。
また、建物の床面積について、分譲マンションなどの区分建物と、一戸建ての建物とで計測方法が異なっていますので注意が必要です。一戸建ての建物の床面積は、壁の中心線で囲まれた部分の水平投影面積、すなわち壁芯面積で記録されるのに対して、区分建物の床面積は、壁の内側線で囲まれた部分の水平投影面積、すなわち内法面積で記録されることとなっています。
(2)権利部
一方、権利部の甲区には、所有権に関することが記録されます。たとえば、売買がおこなわれるときの所有権移転登記は、権利部の甲区において、新しい所有者の住所や氏名などが記録されます。
権利部の乙区には、所有権以外の権利が記録されています。たとえば、抵当権、地上権、賃借権、配偶者居住権です。抵当権設定登記であれば、債権額や抵当権者の氏名または名称などが記録されます。
不動産の売買によって、所有権が売主から買主に移転した場合は、権利部の甲区の登記がおこなわれます。その際、買主が登記権利者となり、売主が登記義務者となります。
表題部の登記手続のことを「権利に関する登記」と呼びます。権利部の登記は、申請義務がありませんが、申請するならば、買主である登記権利者と売主である登記義務者が共同でおこなわなければなりません。これは、登記権利者だけで登記の申請が認められるとすれば、虚偽の申請がおこなわれるおそれがあるからです。
マンションなどの場合、建物は区分所有となるため、専有部分を所有するための敷地の権利を「敷地利用権」として記録することになります。敷地利用権は原則として専有部分と分離して処分することができません。
不動産登記では、敷地利用権は、「敷地権」と呼ばれ、建物と一緒に記録されています。
(3)登記識別情報
売買によって、権利部の登記を申請する場合、売買契約書などの登記原因証明情報や、売主の本人確認のための登記識別情報の提供が必要になります。
登記識別情報とは、登記が完了したときに、登記名義人となった人に通知されるもので、12桁の英数字を組み合わせたパスワードのようなものです。
不動産登記の効力
(1)対抗力
不動産登記には、対抗力があると言われます。当事者以外の第三者に対して、自分に権利があることを主張することができることを「対抗力」といいます。登記がないと、自分の権利を第三者に対抗することができないので、登記することを「第三者対抗要件」といいます。
具体的にイメージしてみましょう。たとえば、佐藤さんは、田中さんから田中さんが所有していた土地の売買契約を結びました。ところが、この取引の翌日、田中さんは、西村さんとも同じ土地の売買契約を結んだとしましょう。この場合、誰が所有権を取得するのでしょうか? とても悩ましい状況です。
まず、田中さんと佐藤さんの関係ですが、買主である佐藤さんは、登記がなくても、売主である田中さんに対して、自分が土地の所有権を取得したことを主張することができます。所有権という権利自体は、当事者の合意で移転するからです。田中さんと佐藤さんの売買契約は有効です。
これに対して、田中さんと西村さんとの関係ですが、買主である西村さんも、登記がなくても、売主である田中さんに対して、自分が土地の所有権を取得したことを主張することができます。所有権という権利自体は、当事者の合意で移転するからです。田中さんと西村さんの売買契約もまた、有効です。
しかし、佐藤さんは、登記をおこなっていなければ、第三者の西村さんに対して、自分が土地の所有権を取得したと主張することができません。登記することが対抗要件だからです。
同様に、西村さんは、登記をおこなっていなければ、第三者の佐藤さんに対して、自分が土地の所有権を取得したと主張することができません。登記することが対抗要件だからです。
つまり、佐藤さんと西村さんはお互いに所有権を主張できない状態です。このような状態に陥ることを、対抗問題といいます。
そうなると、誰が土地の所有権を取得するのでしょうか。これは、対抗要件を早く備えた人です。
売買契約は、佐藤さんのほうが西村さんよりも先に締結されました。しかし、西村さんのほうが、先に登記してしまうと、西村さんが佐藤さんへ所有権を主張できるようになります。それゆえ、西村さんが所有権を取得することとなってしまうのです。
(2)公信力
それでは、登記の情報が間違っていた場合、その登記を信じて取引しようとする人は、保護されるのでしょうか。この場合、保護されることを「公信力」といいます。残念ながら、日本の不動産登記には、公信力がありません。
それゆえ、不動産売買をおこなうときは、登記の記録が現実と一致しているとは限らないと考え、固定資産税を誰が支払っているかなど登記以外の情報を調査したり、現地に訪問して調査したりすることが必要となるのです。
(3)仮登記
登記申請に必要な書類が提出できない場合、仮登記をおこなうことができます。仮登記は、本当の登記ではありませんが、登記する順位を保全することができます。ただし、対抗力はありません。
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地図と公図
◆地図(14条地図)
土地の登記簿には、地図または公図が備え付けられています。
地図は、すべての土地の筆の境界を明確にし、地番を表示するものです。正確には、14条地図といいます。
地図は、正確な測量のもとに現地を復元できるほど精度が高い、縮尺250分の1または500分の1の図面です。しかし、すべての土地に備え付けられているわけではありません。
そこで、現在、地図に準ずる図面として「公図」が利用されています。
公図は、14条地図とは異なり精度があまり高くありませんが、土地の位置を特定し、その大まかな形状や隣地との関係を把握できるようにするため、不可欠なものとなっています。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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