(写真はイメージです/PIXTA)

まさに賃上げブームとなった今年の春闘。「問題は、今後も賃上げが続くかだ」とニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏はいいます。みていきましょう。

実質賃金上昇率のプラス転化は2023年度後半か

2023年の春闘賃上げ率が約30年ぶりの高さとなったことを受けて、2023年度入り後には賃金上昇率が明確に高まるだろう。所定内給与は足もとの1%程度からベースアップと同じ2%台まで伸びが高まることが予想される。また、所定外給与は経済の正常化が進展することを背景に増加が続くことが見込まれる。一方、特別給与は2022年には前年比4.6%(このうち、賞与として支給された給与は2022年夏が前年比2.4%、2022年末が同3.2%)の高い伸びとなったが、このところ企業収益の改善が足踏みとなっていることを反映し、2023年には伸びが鈍化するだろう。

 

現金給与総額は足もとの前年比1%程度から2023年度入り後に2%台まで伸びを高めた後、2024年度にかけて2%台半ばから後半の伸びが続くことが予想される(図3)

 

実質賃金は消費者物価の上昇ペース加速を主因として2022年4月以降、前年比でマイナスが続いている。今後、名目賃金の伸びは高まるものの、消費者物価上昇率が高止まりするため、実質賃金の下落は2023年度入り後もしばらく続く可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率の鈍化が見込まれる2023年度後半と予想する。

 

現時点では、景気の回復基調が維持されることを前提として、2024年の春闘賃上げ率が2023年と同程度となる中、消費者物価上昇率の鈍化傾向が続くことから、2024年度の実質賃金上昇率はプラス幅を拡大させると予想している(図4)

 

【図3】【図4】
【図3】【図4】

横並びの賃上げに持続性はあるのか

現時点では、賃上げの進展は個人消費の拡大をもたらし、このことが持続的な賃上げにつながることをメインシナリオとしている。ただし、賃上げの持続性については不確実性が高い。

 

2023年の春闘では、大企業については当初から賃上げ率が大きく高まることが見込まれていた一方、収益環境の厳しい中小企業では賃上げが進まないことが懸念されていた。連合の集計結果をみると、中小企業の伸びが大企業の伸びを下回っている点は従来と変わらないが、企業規模にかかわらず賃上げ率が前年を大きく上回っている(図5)

 

賃上げが大企業だけでなく中小企業でも大きく進展したこと自体は前向きに捉えることができる。しかし、必ずしも今回の賃上げが収益に見合ったものとなっていない企業が多く存在する可能性があることには注意が必要だ。

 

企業収益が全体として堅調を維持していることは確かだ。日銀短観の経常利益(全規模・全産業)は2019年度に前年度比▲9.6%と8年ぶりの減益となった後、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で同▲20.1%と急速に落ち込んだが、2021年度に同42.7%の大幅増益となり過去最高水準を更新し、2022年度も同7.9%の増加が見込まれている。しかし、2022年度は大企業・製造業、大企業・非製造業が増益を続ける一方、中堅企業・製造業、中小企業・製造業が減益、電気・ガス(全規模)、宿泊・飲食サービス(全規模)が赤字となるなど、規模や業種によってばらつきが見られる。

 

日銀短観で経常利益が赤字の社数割合を確認すると、2018年度の10%程度から企業収益が急速に悪化した2020年度には20%程度まで急上昇した。赤字社数の割合は2021年度、2022年度とやや低下したものの、15%程度で高止まりしている(図6)

 

【図5】【図6】
【図5】【図6】

 

企業収益のばらつきに対して、賃上げは横並びの傾向が見てとれる。大企業・製造業を中心とした収益率の高い企業は大幅な賃上げを実施しても収益の確保が比較的容易である一方、収益率の低い中小企業の多くは賃上げに伴う人件費増加に対する耐久力が弱い*4

 

収益環境が厳しいにもかかわらず、横並びで無理に賃上げに踏み切った企業が多かったとすれば、持続的な賃上げには疑問符が付く。

 

*4:売上高経常利益率(日銀短観2023年3月調査の2022年度見込)は、大企業・製造業が9.96%、大企業・非製造業が6.86%、中小企業・製造業が3.99%、中小企業・非製造業が3.59%となっている。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年4月14日に公開したレポートを転載したものです。

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