損害賠償請求は“できます”
この状況で売主・仲介業者にどこまで責任追求できるのか。
(1)結論
損害賠償請求(民法415条1項、2項)をすることはできます。
(2)理由
不動産の売買契約において、不動産を引き渡す「債務」を負っているのは、不動産の売主です。
「債務の本旨」の内容につきましては、契約当事者間の合意内容により判断されます。上記事例においては、古い浄化槽から汚物が垂れ流されているうえ、夏場は特に異臭がひどく、おまけに大量の虫も発生するとのことです。
通常、不動産の売買には、重要事項証明書が発行されますが、適切な浄化槽が整備されていることや、大量の虫が発生しないことは、当事者間の合意内容となっていると考えられます。
つまり、売主は、「債務の本旨」を「履行」していないことになります。
そのことにより、「損害」が生じ、上記「債務の本旨」を「履行」していないことが原因となり「損害」が生じていることは、明らかです(債務の不履行と損害との間に相当因果関係があるということです)。
また、本件の場合、相談者である買主が、売主に「契約及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」を、積極的に主張・立証する必要はありません。
訴訟しか手段はありません
どうしても賠償金の支払いを拒絶する場合には、訴訟しか手段はないのか。
(1)結論
訴訟しか手段はありません。
(2)理由
上記の相談内容の中に、売主は「賠償金等を払わない」との意思表示をしているとあります。また、浄化槽の不具合について告知書に「知らない」との記載があるとのことです。
そうであるならば、売主は、本件浄化槽の不具合について否定しているうえ、仮に不具合があったとしても金銭を支払わない意思があると考えることができます。
以上を前提とするならば、まず交渉による解決は困難でしょう。また、民事調停につきましても、調停に出てこなくても特段不都合はないことから、売主が調停にでてくる可能性は低いといえます。
よって、上記の結論になると考えました。
ただし、上記の売主の事情、どうもきな臭い。事実関係として、売主の住まいは、買主の住まいからみて、水路を挟んだ北側の隣地にあり、本当に異臭等に気づかなかったのか、疑問なしとせずです。
仮に気づいていたのであれば、売主の売買行為が、民法上の詐欺(民法96条)、刑法上の詐欺罪(刑法246条、最長10年以下の懲役)にあたる可能性があります。